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赤子
――その隙に、俺は周囲へ視線を走らせる。
男子の殺意は、順調に右肩上がり。
これが噂の指数関数的な上昇というやつか。
女子はというと、完全に様子見。
まだ判断を保留している、そんな空気だった。
……なら、やることは一つ。
このまま押し切って、慣れさせるしかない。
俺は腹を括り、それからも郁美の要求にできる限り応じ続けた。
一つひとつが精神的に削られる行為だったが、ここで引くわけにはいかない。
赤子のように口に食べ物を運ばれ、
赤子のようにタオルで口を拭かれ、
なお俺は「ありがとう」と笑顔を絶やさなかった。
――結果。
どうにかこうにか、昼休みを乗り切ることには成功した。
とはいえ、問題が完全に消えたわけじゃない。
むしろこれからだ。
昼休みの終わり際、郁美は当然のように俺から離れようとせず、
最終的には先生に半ば強引に引き剥がされるという小さな騒動が起きた。
だが、それすらも――
クラスの連中は、どこか“見慣れた光景”のように受け止め始めていた。
さっきまでの、あの甘ったるさ全開のやり取りを見た後では――
先生に引き剥がされる程度の出来事なんて、
もはや小さすぎて話にもならないのだろう。




