お弁当
しかし郁美は、
そんな周囲の騒ぎなどまるで気にも留めず、
自分の弁当を、
当然のように俺の机へと広げ始めた。
……ここまで来ると、もう止めようがない。
教室の空気そのものが、
完全に郁美に支配されている。
俺は観念して席に着き、
目の前に並べられた弁当へと視線を落とした。
――ふたを開けた瞬間、息を呑む。
まず目に飛び込んできたのは、
あまりにも整いすぎた配置だった。
色も、形も、余白すらも――
すべてが計算され尽くしている。
中央には、艶やかな卵焼き。
四角く整えられているのに、
どこか柔らかな丸みを帯びていて、
箸を入れれば、
ほろりとほどけそうな優しさを感じさせる。
断面は美しい層を描き、
黄金色のグラデーションが静かに光を受けていた。
口にすれば、きっと、
ほんのり甘く、けれど甘すぎない――
そんな絶妙な味が広がるのだろうと、
自然に想像できる。
その隣には、小ぶりのウインナー。
だが、ただ焼いただけではない。
両端に細かく入れられた切れ目が、
花のように開いている。
赤い色味が、
全体に軽やかなリズムを添えていた。
ご飯の上には、丁寧に敷かれた海苔。
その中央にちょこんと乗せられたのは、
ハート型にくり抜かれた人参。
鮮やかなオレンジが、
白いご飯の上で際立ち、
さりげない可愛らしさを演出している。
――“喜んでほしい”という気持ちが、
そのまま形になったようだった。
さらに、ブロッコリーの緑が、
隙間を埋めるように配置されていて、
ただ詰め込んだだけじゃない、
“余白の美しさ”すら感じさせる。
小さなカップに入ったミートボールは、
つややかなソースをまとっていて、
光を反射するたびに、
食欲を刺激してくる。
全体として、この弁当は、
「美味しそう」だけじゃ終わらない。
「考えられている」
「大切に作られている」
っていうのが、
ひと目でわかる。




