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ラブレター
俺は少しだけ間を置いてから、
小声で頼んだ。
「頼む。
このこと、クラスのやつらには
黙っておいてくれないか?」
「あー……うん。了解……」
どこか歯切れの悪い返事だったが、
それでも頷いてくれただけマシだろう。
――これが広まれば、
郁美が学校で居場所を失ってしまうかもしれない。
いかに今の郁美がおかしかったとしても、
郁美が学校で不遇な立場になるのは、
避けたかった。
しかし、その後の授業で、
俺は知ることになる。
英語だけじゃない。
国語も、数学も、理科も――
手元にある教科書、
その“すべて”に、
同じような書き込みが、
びっしりと施されているということを。
余白という余白を埋め尽くす、
あの文字列。
ページを開くたびに、
同じ熱量、
同じ執着が、襲いかかってくる。
――一体、どれだけの時間をかけたんだ。
想像しただけで、
背筋が冷える。
これはもう、
好意とか、そういう次元じゃない。
「……はぁ」
小さく息を吐き、
俺は教科書をそっと閉じた。
――よし。
しばらくは、
必要なとき以外、絶対に開かない。
最悪、「忘れた」ことにして、
隣のやつに見せてもらえばいい。
そんな現実逃避じみた作戦を、
頭の中で組み立てているうちに、
気づけばチャイムが鳴っていた。




