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動揺
「えっ……あの郁美ちゃんが……」
「なに、二人……付き合ってるの……?」
中には、
「俺の……俺のアイドルがぁ……」
と、魂の抜けたような声まで混じっている。
俺は、動かなかった。
振りほどきもせず、
視線も向けず、
ただ無言でカバンを開き、
教科書やノートを机の上に並べていく。
何もなかったかのように。
感情を切り離すように。
「ねえ、達也くん。おはよう?」
すぐ耳元で、甘く、親しげな声。
それでも俺は返事をしない。
聞こえなかったふりを決め込み、
ページをめくる音だけを立てた。
……頼むから、
早く先生が来てくれ。
すると郁美は、
さらに一歩踏み込むように体を寄せ、
そのまま胸を俺に押しつけてきた。
距離が近すぎる。
「ねえ、達也くん。またチューする?」
「おい!!」
思わず声を荒げた、
その瞬間だった。
「キャーッ!」
女子の悲鳴が上がり、
同時に、教室の空気が一変する。
視線が突き刺さる。
――いや、刺さるどころじゃない。
男子の目から、
はっきりとした殺意すら感じ始めていた。




