ざわめき
何が起きているのか分からず、
とりあえず自分の席へ向かおうとして――
そこで、ようやく異変の正体に気づいた。
……郁美が、いた。
本来なら別のクラスのはずの郁美が、
何の迷いもなく、
俺の席の隣に腰を下ろしている。
まるで最初から、
そこが自分の居場所だったかのように。
「あ、達也くん。おはよー!」
俺に気づいた郁美は、
教室のざわついた空気などお構いなしに、
やけに明るく、軽やかに手を振ってみせた。
なんでいるんだよ。
お前、他クラスだろ。
そう言うのが正解だ。正論だ。
……でも、もう分かっている。
今の郁美に、
そんな理屈は通じない。
言ったところで無駄だ。
むしろ、事態を悪化させるだけだろう。
とりあえず、放置だ。
どうせ先生が来れば気づく。
その時に引き離される――
そう信じるしかない。
俺は何事もなかったかのように、
郁美の隣……いや、
本来の自分の席に腰を下ろした。
周囲の視線を感じながら、
胸の奥に小さな不安の塊を抱えたまま。
クラス中から向けられる視線は、
相変わらず探るように、
突き刺さるように俺の背中に集まっていた。
ひそひそ声、好奇の目、戸惑い、
そして露骨な動揺。
――けれど、郁美だけはまるで意に介さない。
彼女は「当然でしょう?」と言わんばかりに、
椅子を俺のほうへ寄せ、
そのまま腕を絡めてきた。
距離が一気に縮まり、
肌の温度が伝わる。
その瞬間、
教室がわずかにざわめいた。




