諦め
「ち、違うんだよ!
誤解だって、みんな!」
慌てて弁解しようとしたが、
疑念は晴れるどころか、
むしろ燃料を注がれたように膨れ上がっていく。
――まずい。
俺は反射的に、
郁美の口を手で塞いだ。
「……っ、んーっ」
郁美は何か言おうとして、
モゴモゴと抵抗していたが、
これ以上喋らせたら、
本当に取り返しがつかなくなる。
それだけは本能的に理解できた。
「サイテー……」
小さく、しかし確かに聞こえた女子の声。
その一言で、
すべてが決まった気がした。
無視してやり過ごす――
その作戦は、完全に崩壊した。
こういう状況になると、
男の立場は驚くほど脆い。
何を言っても、何をしても、
意味ないどころか悪手だ。
「ど、どうしたんだ、郁美?
おはよう」
俺は顔の筋肉が引きつりそうになるのを、
必死で堪え、
笑顔という名の仮面を被った。
精一杯、無害を装いながら、
郁美の口を塞いでいた手を、そっと離す。
「ぷはっ……達也くん!
おはようー!」
その瞬間だった。
郁美は嬉しそうに声を弾ませ、
そのまま勢いよく俺に抱きついてきた。
――ドッ。
教室の空気が揺れた気がした。
直後、
これまでで一番大きな悲鳴がクラス中に響き渡る。
「キャーーー!!」
もう、どうでもよかった。
今さら引き剥がしたところで、
何が変わるというんだ。
俺は抵抗するのをやめ、
ただ受け止めた。




