13.一方その頃――
学園から離れた、ある薄暗い部屋の中。淡く光る石を手にした女が一人、苛立たしげに舌打ちした。
「ったく、何時までこの私を待たせるつもりなの」
『申し訳ございません』
「謝罪など聞き飽きたわ」
女は苛立たしげに机に指先を打ち付けた。向こう側にいる相手の姿は見えないようになっていて、聞こえてくるのは僅かに響く声だけである。
これまでにも幾度となく、この相手とはやり取りを続けてきた。しかしあの女が失敗して、例のことを命じてからというもの苛立つことばかりが続いている。
『ですが準備の方は進めております。ちょうど近々、学園祭が行われるようなのでその時には必ず』
「学園祭……」
その言葉を聞き、女は僅かに目を細めた。
学園祭ともなれば普段よりも多くの人間が学園へ集まる。生徒だけではなく、その家族や関係者、引いては一般客までもが訪れることも珍しくない。普段ならば目立つ行動であっても、その日ばかりは人の多さに紛れさせることができる。
何かを仕掛けるには、都合のいい機会だった。
「失敗したら――分かっているわよね?」
『左様です』
「なら、余計な言い訳は必要ないわ。こちらが望んでいる結果だけを出しなさい」
『承知しております』
返ってきた声に、女は僅かに鼻を鳴らした。
目的が一致している間だけ、手を組む。ただ、それだけの関係で十分である。相手が忠誠を誓っているわけでもないことと同様に、こちらも相手を信用しているわけではない。互いに利用できるものがあり、互いにそれを必要としているからこそ組む価値があるというものだ。
「第一、あの愚図が――」
―――失敗しなければ、こんなことにはならなかった。
そこまで吐き捨てようとしたものの、しかし、その先を続けることはなく、途中まで口にしたところで女はふと言葉を止めた。今さら愚痴を零したところで何になるのか、と。
結果として駒を一つ失ったものの、所詮、地下で生きてきた野良犬に過ぎなかっただけの話である。自分が目を掛けてきたメイドまでわざわざ寄越し、必要な手を回して娼館へ口を利いてやったというのに結局は思うように使えなかった無能だった。
もっともあの女自身、最後まで裏に誰かがいることに気付けなかったのだから自らの存在が露見するわけではなく、何時までも引きずっているわけにはいかなかった。
それに、相手は貪欲なのだ。愚痴一つ漏らすだけでも自身の首を絞める行為になり得る。こちらの事情を必要以上に知られたところで得をするのはこちらではないのだ。
『……どうされましたか?』
「何でもないわ。少し考え事をしていただけよ」
余計な感情を表へ出していたことに気付き、女は胸の内に浮かんだ苛立ちを押し殺すようにゆっくりと息を吐いて声の調子を戻した。
「それより先ほどの話を進めなさい。近々行われる学園祭。その機会を使うのでしょう?」
『はい』
「なら、そこで必ず結果を出してちょうだい」
淡々と告げると、女はほんの僅かに口元を緩めた。
これまであの娘を密かに狙っていたものの、全くパーティーにも顔を出さず、おまけに公爵令嬢ということもあって下手に攫うことができないから難しかったのだ。
本来ならばあの執念深い女に任せて徐々に弱らせてから手中に収めるつもりだったのに――。それが失敗に終わった以上、別の方法を取るしかなかった。
『必ずや――皇太后陛下』




