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今度はあなたと共に  作者: 龍狐
第五章 ――公爵令嬢と学園生活
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9.初の委員会

 放課後になると、リリアは掲示されていた委員会の教室へと向かった。各委員会には各クラスから男女一名ずつが選ばれていて、普段の教室とは異なる顔ぶれが揃っている。


 美化委員の教室へと入り、リリアが指定された席に向かうと隣には既に一人の男子生徒が座っていた。同じクラスの生徒ではあるものの、これまでまともに話したことはなく、一度目の学園生活でも何度か見掛けた筈だが特に印象に残っている人物ではなかった。

 リリアは改めてその顔を見ながら家名を思い出そうとする。



「確か、ウェストロッド伯爵家の……」


「――僭越ながら、クラスター・ウェストロッドと申します。存じていただき感謝いたします」


 直ぐさま名乗った男子生徒に、リリアは僅かに目を瞬かせた。



「お気になさらず。私はリリア・ナイーゼです。以後お見知りおきを」


「勿論存じております。ナイーゼ公爵家は社交界でもトップクラスの家門ですから」


 丁寧な口調からはまだ少し緊張している様子が窺え、リリアは安心させるように小さく笑った。



「そう固くならないでください。折角同じクラスになったのですから、この機に仲良くしましょう」


「私でよければ喜んで」


 クラスターも僅かに表情を和らげたところで前方から教師の声が響き、生徒たちの視線が教壇へと集まった。



「それでは、美化委員の活動について説明します」


 ざわめきが一段落したことを確認すると、担当教師は特に名乗る気配もなく言葉を続けた。


 一度目の学園生活では委員会活動など考えたこともなく、だからかリリアが美化委員と聞いて最初に思い浮かべたのは学園内を綺麗に保つための仕事という程度だった。



「先ず最初に行ってもらうのは学園内の清掃状況の確認です」


 続く説明を聞き、リリアは僅かに目を瞬かせた。


 勿論、生徒自身が掃除をするわけではない。学園内には専属の清掃人がいて、日々の清掃は彼らによって行われているのだ。美化委員が担当するのは清掃がきちんと行われているかを確認し、不十分な場所があれば担当者へと伝えることなのだという。



「本日は実際に担当場所を確認してもらいます。クラスごとに指定された区域がありますので、同じ場所を担当する者同士で確認してきてください」


 説明を終えるなり、それぞれ指定された場所へと向かっていった。リリアもチェック表を受け取ると、クラスターと並んで廊下に出る。



「……ここですね」


 到着するなりクラスターが表へと目を落として指定された場所を再確認する。


 手分けして床や窓際、壁際といった清掃後の状態を一つずつ確認し、チェック表に気になったところを記載していくと、普段なら何気なく通り過ぎている場所でも、こうして改めて見てみると意外なところまで目についた。


 確認を終えた二人は委員会の教室まで戻ると、記入したチェック表を教師へと提出した。



「――美化委員には、学園内の品格を保つための指導も行ってもらいます」


 戻ってきた生徒たち全員が席に着いたことを確認するなり、担当教師はそのまま二つ目の仕事について話し始めた。


 廊下を走る、制服を大きく着崩す、周囲の迷惑になるような行動をするといった分かりやすいものだけではなく、廊下での歩き方や立ち居振る舞い、貴族の子女として相応しい所作が守られているかどうかも美化委員が確認する範囲に含まれるらしい。

 ただし自身の判断だけで何でも注意していいというわけではなく基準があるという。リリアは渡された資料に目を通しながら、思っていた以上に繊細な仕事なのだと理解した。制服の着こなし一つを取っても、どこまでなら問題がなく、どこからが注意の対象になるのかが細かく定められているのだ。



「……随分と細かいものなのですね」


 隣からクラスターが小さく呟く。



「ええ、本当に。もう少し単純な仕事を想像していました」


「私もです。もう少し気楽な委員会だと思って選んだのですが……」


「私も似たようなものですよ」


 クラスターが苦笑すると合わせるようにリリアも小さく笑う。そんな会話を交わしている内に次の説明が始まった。


 美化委員の仕事は学園内の庭園に関することにも及ぶらしい。庭園そのものの景観を維持するだけでなく、季節ごとにどのような花を植えるのか、その計画にも委員たちが関わるだという。



「今は春ですので……折角なのでこれから夏に向けた植栽について考えてもらいましょうか」


 また何かするのかと生徒たちの間から小さなざわめきが起こったものの、意に介した様子もなく担当教員は淡々と続ける。



「では――クラスごとに集まった六人で話し合ってください。候補となる花を幾つか挙げてもらえれば構いません」


 指示を受け、同じグループになった生徒たち同士で固まると、リリアやクラスターのほか別のクラスから男子生徒二人と女子生徒二人が集まった。



「先ず候補を出していきましょうか」


 軽く自己紹介を済ませた後グループのうちの一人が資料を広げ、他の生徒たちもそれぞれ夏に咲く花へと目を通し始めた。


 それぞれが意見を出していく中、リリアも資料を眺めながら自分なりの案を口にする。普段なら話す機会のなかった生徒たちだったが共通の目的があるからなのか、思っていたより緊張することもなく会話へと加わることができた。



「今日はここまでで結構です。次回までに今日出た候補を整理しておいてください」


 幾つかか候補を挙げ、配置についても大まかな意見が纏ったところで教師から終了の声が掛かった。



「次ですが――」


 文化祭などの行事で、会場をどのように飾り、どのような雰囲気に整えるのかといった部分に美化委員が関わるらしい。ただし、こちらについては文化祭の準備が始まってから詳しく説明するとのことだった。


 文化祭に関する話が出たことで委員たちの間からはこれから始まる準備について話す声がちらほらと聞こえてきたものの、今日の活動はここまでらしく担当教師が解散を告げる。生徒たちはそれぞれ資料を纏めながら帰り支度を始めた。


 こうして初日の委員会活動は一通り終わった。リリアも荷物を纏め教室を出ると、同じように廊下に出てきたクラスターと並んで歩き始めた。



「思っていたより大変そうですね」


 歩きながらリリアがそう口にすると、クラスターが苦笑した。



「そうですね……、私もそう思いました。楽そうという理由で選んだのですが存外そんなことはなかったようで」


「ふふっ」


 あまりにも正直な言葉に、思わずリリアは笑った。始めの強張りが嘘のようである。



「これから度々ご一緒することになりそうですね。文化祭の際はよろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします。クラスでは中々お話しできる機会がないので……」


「そうですね。私も、こうして委員会が同じにならなければゆっくりお話しする機会はなかったかもしれません」


 同じクラスであっても普段から話す相手はどうしても限られている。そう考えると、今回の委員会でクラスターと話す機会を持てたことも決して悪いことではなかった。


 そう思いつつ、ふと思い出したようにリリアは身体を翻す。



「それでは私はこれで。友人の様子も見に行きたいので」


「左様ですか。ではまた明日、学園で」


「ええ。また明日」


 クラスターと別れたリリアは、そのまま廊下を進んだ。ローズもそろそろ委員会を終える頃だろうと思えば、どのような活動をしているのか少し気になり、リリアはそのままローズのいる教室へ向かうことにした。

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