8.委員会決め
担任であるベルーナ先生が委員会についての説明を続ける中、教室ではクラスメイトたちが互いにどこへと入るかを小声で相談し合っていた。
そんな様子を眺めながら、リリアは教壇へと視線を向けた。
一度目の学園生活では放課後になると王妃教育が入っていて、委員会など考えたこともなかった。そもそも、当時の自分には授業以外の学園生活に目を向ける余裕すらなかったのだ。
「リアはどちらにいたしますの?」
そんなことを考えていると前の席に座るローズから声を掛けられ、リリアは少し考えるように顎へと片手を添えた。
「そうですね……図書委員や美化委員のような、陰ながら人を支える委員がいいですね」
少なくとも、クラス委員や実行委員のように人前へと出る機会の多いものは避けたい。図書委員なら様々な本に触れる機会が増えるだろうし、美化委員なら学園内を清潔に保つなど、目立たなくとも誰かの役に立つことができるだろう。
そう考えて答えると、ローズが小さく息を吐いた。
「女一人、男一人と決まっているのが歯痒いですわぁ。リアと同じ委員に入れないではありませんの」
「……そういえば、ロゼはどちらへ行くつもりなのですか?」
そこでふと気になり尋ねてみると、ローズは教壇の方に視線を戻して並んでいる委員会の名前を眺めた。
「そうですわね……折角ですもの。私は実行委員などに入るつもりですわ」
「実行委員……ですか」
リリアが避けようとしていた委員会だったものの、華やかなものを好むローズの性格を考えれば、目立つ立場を選ぶことに不思議はない。
「ええ。近々、文化祭が控えているでしょう?」
ローズは扇子の先を顎に当てながら、少しだけ考えるように続けた。
「将来国を支える者の一人として、周囲をまとめ上げる力も必要かと思いますの。私は公爵令嬢ですもの。こういう場で率先して人を纏めるくらいできなければ周囲に示しがつきませんわ」
「もうそこまで考えていらっしゃるのですね」
思わず感心したように呟くと、ローズは得意げに胸を張った。
「ふふーんですわ」
あまりにも予想外な返しに思わずリリアが小さく笑ってしまうと、ローズもつられるように笑みを浮かべた。
「ユーリー殿下は何にされるのかしら?」
ひとしきり笑ったところで、ローズがふと思い出したように話題を変える。
「案外ロゼと同じだったりして」
リリアがそう言うと、ローズはくすくすと笑った。
「嫌ですわね」
口ではそう言いながらも、本気で嫌がっているわけではないらしい。
「もしかすると、リアと同じかもしれませんわよ?」
「……どうしてですか?私と同じ委員を選ぶ理由なんてないと思いますが」
不思議に思って尋ねると、目を細めたローズが何かを面白がるように口元を緩めた。
「そういうところも好きですわよ」
「何でですか!」
思わず突っ込んだものの、ローズは楽しそうに笑うばかりでそれ以上のことは教えてくれなかった。
そうしているうちにベルーナ先生の説明も終わり、委員会を決める時間へと移っていく。リリアは美化委員に手を挙げ、ローズも予定通り実行委員に手を挙げた。
ところがユーリーは最後までどの委員にも手を挙げることなく、そのまま委員会決めが終わって休み時間になったのだった。
「意外ですわね」
教室に残っていたリリアたちのところへとユーリーがやって来るなり、開口一番ローズがそのように告げた。
「……何がですか?」
「てっきりリアと同じ委員に入るかと思っておりましたわ」
分かっているぞと言わんばかりにローズに言われ、ユーリーが僅かに息を吐く。
「そうしたかったのですが、国のこともあって……委員会には就けないのです」
「ああ。留学しているとはいえ一応王族ですものね」
ローズが開いた扇子を口元へと当てると、ユーリーは何事もなかったかのように頷いた。
「ええ。それに、やることが存外多いのです。委員会へと入ってしまえば却って皆さんに迷惑を掛けるでしょうから」
「そういうことでしたの」
ローズは納得したように頷いたものの、その目にはどこか楽しげな色が残っていた。
「てっきり気持ちの方を優先される方かと思っておりましたわ」
「……何のことでしょう?」
ユーリーがいつもの笑みを浮かべたままサラリと受け流すと、扇子の向こうで笑ったローズが「さあ?」と告げた。
何となく二人の間にだけ通じるものがあるような気がしたものの、リリアには結局その意味まではよく分からなかった。会話が一段落したところで、ふと思い出したように口を開く。
「そういえば、近々文化祭がありますよね」
二人の意識がリリアへと向いた。
「実行委員のロゼは当日忙しいでしょうし、ユーリー殿下も何かと予定があるかとは存じますが、お二人は当日どなたと過ごすおつもりですか?」
何気なく尋ねただけだったものの、その瞬間ローズとユーリーが揃ってリリアを見る。
「勿論、リアと」
「勿論、お二人と」
殆ど同時に返ってきた答えに、リリアは思わず目を瞬かせた。あまりにも息の合った返事が可笑しくなってクスクスと笑ってしまう。
一方のローズとユーリーは互いの顔を見合わせて、やがて小さく息を吐いた。
「仕方ありませんわね。私が実行委員の仕事で席を外す時は頼みましたわよ」
「ローズさんの頼みとあれば仕方ありませんね」
「私抜きで話を進めないでください!」
またしても勝手に話を進められたリリアが思わず声を上げると、顔を見合わせた二人が揃って笑い出す。
「すみません」
「悪かったですわ」
「……もう」
何となく、二人に揶揄われているような気がする。少しだけ頬を膨らませてそっぽを向くと今度こそ二人が申し訳なさそうに笑い、リリアも結局つられるように口元を緩めた。
そんなやり取りをしているうちに、次の授業が始まる時間が近付いてきていた。委員会は早速その日の放課後から始まるらしく、美化委員にはこれまで殆ど話したことのない生徒もいる筈である。
新たに話せる人が増えればいいな。そんなことを考えながら、リリアは次の授業に向けて準備をし始めたのだった。




