ラミア・クレマチスという令嬢Ⅲ
父と兄がいなくなった後クレマチス伯爵家を引き継いだラミアは、幼い頃から身につけてきた知識を頼りに家を維持していた。
若い娘一人に伯爵家を支えられるはずがないと陰で囁く者もいれば、支援を申し出ることで恩を売ろうとする者や、将来の利益を見込んで婚姻を持ち掛けてくる者までいた。それでもラミアは必要なものだけを選び取り、それ以外には決して付け入る隙を与えなかった。
そうして家を守りながら学び続けるうちに、やがてラミアにも学園へと通う年齢が訪れた。今さら学園へ通わずともクレマチス家を維持していくことに支障はない。それでも彼女が入学を選んだ理由は幼い頃から何一つ変わっていなかった。
アバンリッシュに会いたかったのだ。あの頃とは比べものにならないほど成長した自分を見てもらい、助けてもらったことへの礼も伝えたかった。何も知らなかった少女が、今では伯爵家を支えられるほどになったのだと知ってほしかった。
そして、できることなら今度こそ彼の傍にいたいという願いもあった。幼い日に芽生えた想いは年月を重ねても薄れることなく、むしろ再会を待ち続ける間にますます大きくなっていたのである。
だからか学園に入学してからもラミアは暇さえあればアバンリッシュの姿を探していた。同じ学年の令嬢たちについて調べ、今後のために誰と親しくしておくべきかを見極めることも怠らなかったが、彼女にとって何より大切なのはアバンリッシュとの再会だった。
だがアバンリッシュの周りにはいつも誰かがおり、一人になることが殆どない。話し掛けようと思えばできたが人前で昔の話をするわけにもいかないし、彼が嫌がるような形で割って入ることもしたくなかった。
焦って無理に話し掛ける必要はないし、学園にいる以上はいずれ機会が訪れるだろう。ラミアはそう考えていたのだが、程なくしてアバンリッシュがある男爵令嬢を気に掛けているという噂を耳にした。
最初のうちはラミアもよくある噂話の一つだと考えていた。公爵家の嫡男ともなれば少し令嬢と言葉を交わしただけでも周囲の話題になる上に、相手が身分の低い男爵令嬢であれば尚更面白半分に騒がれても不思議ではなかったからだ。
ある日、噂の相手が同じクラスにいるベルジェ男爵家の令嬢――アルテミス・ベルジェだと知った。
アルテミスは目立つことを好むような性格ではなく、授業中も休憩中も比較的静かに過ごしている。容姿には人目を引くものがあったが、それを利用して誰かに取り入ろうとする様子もなかった。それまで特に気にも留めていなかった相手だったが、アバンリッシュとの噂を知ってからは自然とアルテミスのことを目で追うようになっていた。
そしてある時、友人と共に教室を訪れたアバンリッシュがアルテミスへ視線を向けていることに気付き、ラミアは彼の眼差しに込められた感情を理解した。
それ自体はほんの僅かな時間に過ぎなかったものの、長い間彼だけを想い続けてきた彼女にとってはそれだけで十分だったのだ。噂など信じたくなかったし、何かの間違いであってほしいとも思ったが、自分の目で見てしまった以上いつまでもそう思い続けることはできない。
そうしてラミアは、何を思ったのかアルテミスへと近付くことにしたのだ。
「アルテミスさん」
「はい?」
「少しお話ししてもよろしいかしら」
「私と、ですか?」
「ええ」
警戒されるかと思ったものの、アルテミスは戸惑いながらも頷いた。
彼女は、公爵令息であるアバンリッシュから想いを寄せられているという噂の所為で何人もの令嬢から距離を置かれていた。身分が釣り合わない、身の程を弁えるべきだと陰で囁かれていることをラミアも知っていた。
周囲は二人の様子を興味深そうに窺い、伯爵令嬢であるラミアが男爵令嬢のアルテミスに何を言うつもりなのかと期待していた。
だがラミアはそんな視線など気にせず、穏やかな笑みを浮かべたのだ。
「よければ、私と友人になりませんか?」
「……私と?」
「嫌かしら?」
「いいえ!」
アルテミスは慌てて首を振ると、それから本当に嬉しそうに笑った。
「よろしくお願いします、ラミア様」
「こちらこそ」
差し出された手を握りながらラミアも穏やかな笑みを返した。
もちろん純粋な友情を求めて声を掛けたわけではない。アルテミスと親しくなれば、周囲には見せていない本性まで知ることができるかもしれないし、もし彼女の姿が偽りで実際には彼の身分や好意を利用しようとしているだけなら、彼の目を覚ませられると考えていたのだ。
ラミアはすぐに何かを仕掛けることはせず、先ずはアルテミスが自分に心を開くのを待った。勉強や休日の過ごし方について話し、他愛のない世間話にも付き合い、困っていれば手を貸す。周囲の令嬢から心ない言葉を浴びせられている時には慰め、友人として傍にいる時間を少しずつ増やしていった。
長く親しくしていれば何れ取り繕っていた部分も崩れ、本性を見せる時が来る筈だと思っていたのだ。
しかしいくら待ってもラミアが期待していたような変化は訪れない。少し不器用で恋愛の話になれば途端に言葉を濁し、ラミアが揶揄えば分かりやすく困った顔をし、アバンリッシュのことを尋ねても身分差を理由に迷惑を掛けてはいけないと考えているようだった。
裏があるどころか、拍子抜けするほどそのままの人間だった。
それでもラミアがアルテミスを見る目が好意的なものへち変わることはなかった。むしろ、どれだけ近くで探っても期待していたような本性が見つからないことに、次第に苛立ちを覚えるようになっていた。
何か一つでも醜い部分があればよかった。アバンリッシュの身分だけを目当てにしているのなら暴けばいいだけ、彼の好意を利用しているのなら騙されているのだと目を覚まさせることもできた筈だった。
ところが、いくら探ってもラミアが望んでいたような本性は見つからず、それでもアバンリッシュの視線だけは相変わらずアルテミスへと向いている。
―――何故、よりにもよってこの女なのか。
理由を見つけられないまま二人が惹かれ合っていくことに耐えられなくなったラミアは、やがてアルテミスを疎ましく思っている令嬢たちを利用して嫌がらせをさせ、自分だけが味方として寄り添うことで彼女を完全に孤立させようとした。
それとなく令嬢たちの不満を煽るような発言を敢えて聞こえるような場所で会話に混ぜ、直接何かを命じることなく令嬢たち自身がそう考えたと思える程度に陰で背中を押す。その結果、陰口だけだったものは次第に嫌がらせへと変わっていった。
ラミアはそれを止めず、むしろアルテミスが傷付けば彼女自身が傍に寄り添ってあげたのだ。
「気にしなくていいわ。あの人たちは、あなたを妬んでいるだけよ」
「そうでしょうか……」
「私が言うのだから大丈夫。あなたは何も悪くないわ」
そうやって自分を頼るようになればいい。
周囲に敵が増えれば増えるほど、アルテミスは自分だけを信用するようになる。そうなれば彼女の考えを誘導することも容易になる筈だった。
ところがある日、令嬢たちがアルテミスを取り囲んでいるところに偶然アバンリッシュが居合わせ、彼女たちを退けてしまった。以降、表立ってアルテミスに危害を加える者は目に見えて減り、ラミアが少しずつ作り上げていた状況はアバンリッシュ自身の手で崩されてしまったのだ。
それだけでも腹立たしかったが、何よりラミアの目についたのはアルテミスとアバンリッシュの心の距離が自身の策略の所為で縮んでしまったことだった。
二人が互いに想い合っていることなど傍から見ているラミアには明らかだった。それにも関わらず当人たちは相手の気持ちに気付いていない。ラミアは、ならばそのすれ違いを利用すればいいと考えた。
アルテミスには、アバンリッシュが自分を特別に想っているわけではないと思わせ、反対にアバンリッシュには、アルテミスから想われていないと思わせる。互いに相手の気持ちを諦めさせてしまえば、二人が結ばれることもなくなる筈なのだと。
これまでラミアはアルテミスには様々な手を使っていたが、アバンリッシュ本人を騙すことだけは避けていた。彼を、自らの手で傷付けることには抵抗があったからだ。
それでも、このまま何もしなければアルテミスに奪われるかもしれないと思えば、その抵抗も次第に薄れていった。
ある日、学園内で開かれた集まりにアバンリッシュが参加していることを知ったラミアは、その場を利用することにした。
人の出入りが多く飲み物も頻繁に運ばれていて、誰が何を口にしたのかなどいちいち気に留める者はいない。ラミアはその隙を利用して、アバンリッシュへと出される飲み物に予め用意していた薬を混ぜた。
父と兄を葬った時のように誰か別の人間を使うことも考えなかったわけではない。けれど、今回は余計な人間を間に挟むことの方が煩わしく思えたのだ。
もちろん自ら薬を混ぜる以上、誰かに見られればその場で疑われかねない。それでもラミアは周囲の目が外れる僅かな隙を狙い、何食わぬ顔で薬を混ぜ終えた。使った薬は意識を失わせるためのものではなく、頭を重くさせ、正常な判断を鈍らせる程度に量を抑えてある。
やがて何も知らないアバンリッシュがその飲み物に口を付けるのを見届けると、ラミアはすぐに近付かずに離れた場所から彼の様子を窺った。他の者と会話を交わしながら時折アバンリッシュの様子を窺い、薬が効き始めるのを待ち続けたのだ。
暫くすると、アバンリッシュにも目に見える変化が現れ始めた。それまで周囲の者と言葉を交わしていた彼が次第に口数を減らし、やがて会話の輪から離れていったのだ。何事もないように振る舞ってはいたものの、壁際まで移動すると人目を避けるように俯き、片手で額を押さえている。
どうやら、これ以上誰かと話し続ける余裕はないらしい。それでも自ら助けを求めようとはせず暫く休めば治まるとでも考えているのか、その場から動こうともしなかった。
そんな彼に、ラミアは頃合いを見計らって話しかけた。
「アバンリッシュ様」
呼び掛けると、アバンリッシュはゆっくりと顔を上げた。焦点が合っておらず、普段の彼とは明らかに様子が違う。
「随分お辛そうですわ。こちらへ」
「……いや……」
小さく拒む声が返ってきたものの、それ以上の言葉は続かなかった。
「人目のあるところで倒れられては大変です。すぐ近くに休める部屋がありますから」
ラミアは口元を小さく歪ませてアバンリッシュの腕を支えた。彼は振り払おうともせず、それどころか拒むことさえ億劫なのか重い足取りのまま彼女に導かれて歩き始めたのだ。
周囲に不自然と思われないよう具合の悪くなった知人を休ませに行くだけの顔をして、そのままアバンリッシュを人目の少ない部屋へと連れていった。
部屋の中へと入るなり傍の椅子にアバンリッシュを座らせ、ラミアは暫くその様子を見つめていた。呼び掛けても返事が来なくなったところで、静かに彼の傍へと近付く。
「アルテミスは貴方を愛していない。貴方がどれだけ想っていても、あの子が同じ気持ちだとは限らないの」
「身分が違うからではないわ。あの子自身が、貴方との未来を望んでいないのよ」
反応のないアバンリッシュを見ても構わずに、ラミアは同じ言葉を繰り返した。
「アルテミスは貴方を愛していない」
一度だけではない。言葉を変えながら、何度も同じ意味を聞かせ続けた。
「愛していない。貴方が想っているだけよ」
「アルテミスは、貴方との未来を望んでいない」
「あの子を想い続けても報われない」
何度も、何度も。
―――アルテミスは自分を愛していない。
何を聞かされたのか後になって思い出せなくても構わない。その考えだけが彼の中に残れば、それでよかったのだ。
やがてラミアは話を切り上げた。これ以上ここに留めておけば後になって余計な疑念を持たれるかもしれないと思ったからだ。
アバンリッシュを部屋に残して一人で廊下へと出ると、少し離れたところにいたメイドを呼び止める。
「そこの貴女。少しお願いしてもいいかしら」
「はい。何でしょうか」
「あちらの部屋に、具合を悪くされた方がいるの。とてもお一人で帰れる状態ではなさそうだから、誰か人を呼んで馬車までお連れして、そのまま屋敷に帰して差し上げて」
「かしこまりました。すぐに人を呼んで参ります」
メイドが足早に立ち去ろうとしたところで、ラミアはもう一度呼び止めた。
「ああ、それと――今日のことは、わざわざ他の方へ話さなくてもいいわ。ご本人も、体調を崩したことを大事にはしたくないでしょうから」
「承知いたしました」
メイドはそれ以上何も尋ねず、他の使用人を呼ぶために廊下の向こうへと駆けていった。ラミアはその姿を見送るとアバンリッシュのいる部屋へ戻ることもなく、そのまま集まりへ引き返した。
程なくして数人の使用人が部屋を訪れ、まともに歩くことも難しくなっていたアバンリッシュを馬車まで運んでいったのだが、その頃にはラミアも既に大勢の中へ紛れ、何事もなかったかのように振る舞っていた。
そうしてアバンリッシュへの働き掛けを終えると、今度はアルテミスの気持ちを彼から遠ざけようとした。
アバンリッシュほど手を掛ける必要もなかった。アルテミスは以前から、公爵家の嫡男である彼と男爵令嬢の自分とでは身分が釣り合わないと考えていたため、その不安を少しずつ大きくしてやるだけでよかったのだ。
「アバンリッシュ様は、本当にお優しい方ね」
「……はい」
「ふふ、そんなに恥ずかしそうにしなくてもいいでしょう?」
「そ、そういうわけでは……」
「私は素敵だと思うわ。あなたがあの方を慕っているのなら、何も恥じることではないもの」
からかうように笑われ、アルテミスは困ったように俯いた。
「でも……私では、アバンリッシュ様には釣り合いませんから」
「そんなこと、今から考えなくてもいいのではなくて?」
「ですが……」
「身分のことも、ご家族のことも、いずれ考えなければならない時は来るでしょうけれど、それであなた自身の気持ちまで否定する必要はないわ」
ラミアはそう言って、アルテミスを安心させるように微笑んだ。
「少なくとも私は、あなたが後悔しないようにしてほしいと思っているわ」
「……ありがとうございます、ラミア様」
「ええ。私はあなたの友人だもの」
それからもラミアは折に触れて同じような言葉を掛け続けた。決してアバンリッシュを諦めるよう促すことはなく、むしろアルテミスの気持ちを肯定しながら彼女が身分差や家同士の事情を口にすれば、その不安にも親身になって耳を傾けた。
そうしたやり取りを繰り返しているうちに、アルテミスはラミアをますます信頼するようになった。それと同時に、以前から抱えていた不安について考える時間も増えていったのだ。
ラミアがしていたのは、アルテミスの考えを否定することではない。彼女が自分から口にした不安を聞き、それを完全には打ち消さないまま、優しい言葉で包み込んで返していただけだった。
だからこそ、アルテミス自身も誘導されているとは思わなかった。ラミアは自分の恋を否定するどころか、誰よりも親身になって話を聞き、励ましてくれる友人だと信じていたのである。
やがてラミアの狙い通り、二人は互いに想い合いながらも、その気持ちを確かめられないまま自分だけが一方的に相手を求めているのだと思い込むようになっていった。
ここまで二人の距離が開けば、少なくとも恋愛の末に婚姻へ進むことはないだろう。そう考えたラミアはようやく安心し、あとはアバンリッシュがアルテミスへの想いを諦めるのを待つつもりでいた。
あとは時間を掛けてアバンリッシュの傍に寄り添えばいい。彼がアルテミスへの想いを諦めた時、自分こそがずっと彼を想い続けていたのだと伝えればきっと今度は見てもらえる――そんな未来を疑っていなかった。
だからこそ、二人の婚姻が決まったと知らされた時、ラミアは始め何を言われているのか理解できなかったのだ。
「……結婚?」
「ええ。ナイーゼ公爵家とベルジェ男爵家との間で正式に話が纏まったそうです」
伝えてきた者に聞き返しても答えは変わらなかった。
恋人同士として関係を深めたわけでも、互いの気持ちを確かめ合ったわけでもない。それなのに家同士の利害が一致したことで婚姻が決まったのである。
ベルジェ家が保有する鉱山から採れる希少な宝石には大きな価値があり、それを扱う技術や販路を持つ側にも莫大な利益をもたらす可能性がある。身分だけを見れば釣り合わない婚姻であっても、両家に利益がある以上、成立しない話ではなかった。
ラミアにとって、両家にどのような利害があったのかなどどうでもよかった。アルテミスに近付き、友人として振る舞い、彼女を孤立させるために令嬢たちまで利用し、ついにはアバンリッシュ本人の思考にまで手を加えたというのに、結局二人は別の理由によって結ばれてしまったのだ。
これまで自分がしてきたことは何だったのか。その思いだけが頭から離れず、ラミアは婚姻の知らせを受けた日から殆ど学園へと姿を見せなくなった。
屋敷へと戻れば部屋に閉じ籠もり、必要最低限の仕事以外は誰とも会わない。周囲から体調を心配されても、返事をする気にはなれなかった。
それでもアバンリッシュへの想いが消えたわけではなく、愛しさと同じだけの憎しみが胸の中へ入り込み始めていた。何故自分に気付かなかったのか、何故アルテミスを選んだのか、そして何故これほど長く想い続けてきた自分の存在を知らないまま別の女と幸せになろうとしているのか。考えれば考えるほど二つの感情は混ざり合い、ラミア自身にも何処からが愛情で何処からが憎しみなのか分からなくなっていった。
そんなラミアの元に、ある日一通の手紙が届いた。
―――アルテミスだった。
差出人の名前を見た瞬間、指が止まった。手紙にはラミアの体調を案じる言葉が並んでいて、最後には結婚式へと来てほしいという誘いまで書かれていた。
何も知らないアルテミスは、今でもラミアを友人だと信じているのだろう。自分がどんな思いで傍にいたのかも、二人の間に生まれた誤解に誰が手を加えたのかも知らず、アバンリッシュと結ばれることを喜びながらラミアにもそれを祝ってもらえると本気で思っている。
ラミアは何度も手紙を読み返した末に、指先へと力を込めてゆっくりと握り潰した。
自分は幼い頃からアバンリッシュだけを見てきた。彼に再び会うために学び、彼の隣に立てる人間になるために生きてきたというのに、そんなことなど何も知らないアルテミスが当然のように彼の隣に居座ろうとしている。
その事実を受け入れることができなかった。二人だけが幸せになるなど許せない。アバンリッシュを奪ったアルテミスが、この先何も知らないまま彼と生きていくことも、アバンリッシュが自分の存在に気付かないまま別の女だけを見続けることも絶対に許せない。
握り潰した招待状を見下ろしながら暫く動かなかったラミアは、やがてゆっくりと顔を上げた。いつの間にか涙は止まっていた。いつの間にか悲しみは止んでいた。
ラミアはこれまで二人を引き離しさえすればいいと思っていた。けれど最早それだけでは足りない。そんなことだけでは到底許されなかった。
その日を境にラミアがアルテミスへと向けるものは、二人を引き離すための嫉妬では済まなくなっていたのだ。




