7.
光は光らしからぬグレイを纏い現れた。黄昏の頃。相応しいとも言える。瞳に輝きがない。夕刻を写し取ったかのように。
落ち行く陽の光に満ちる室内、半ば影から、彼女は椅子の背に声をかける。囁くように。
「新聞を見た? クリス」
背もたれはまずため息を伝えた。そして声。彼女の従兄の、低い声。
「新聞は見ていない。話を聞いたよ」
「そう」
「ハクスリーは寮の上級生だった。クラブでは格好の話題だ。そんなことをする男だとは思えないが半数、いつかこんなことをすると想っていたが半数。人の口は勝手なものだと、こんな時に何度でも思い知る」
そして自分は、後者のいつかこんなことを、の方であったことを、クリストファーは口にはしなかった。
「記事を見て私、やっぱり、って思ったの。こんな悲劇を知って、やっぱりと思うことをどう思う? 私は」
躊躇いに言葉が切れた。何に対する躊躇いなのか。
「予測していたのだったら、何かをするべきだったのじゃないかしら……と、思って」
クリストファーは眉を上げた。予測していた不愉快の為に。彼女の顔を横目で見る。こちらも予測どおり、真剣な瞳が見上げていた。
「そんなことを気に病むのは、彼らの周囲の何十人の後にするといい。君は彼らとは一度会ったきりじゃないか。それとも接触があった? 僕に隠れて。メアリーアン」
「いいえ、クリストファー」
「君が思い悩む。それは僕のせいかな」
「いいえ。すり換えないで、クリス。あなたのせいじゃない。私が動かなかったんだから、私のせいなの」
「ふぅん」
「だけど私はこうやって、あなたに甘えに来ているの。そういう風なことを言って欲しくて来たんだもの」
聞き逃しそうな微かな吐息に、衣擦れの音が後に続いた。ふ、とクリストファーの顔に影が差す。瞬きほどの間。
再び視界はやわらかな夕陽に満たされた。ふわりと横で、淡いブラウンの髪が揺れる。記事に駆けて来たためか、結っていないのだ。あの頃のように。
隣の肘掛におさまったメアリーアンと、長く視線を交わした。思いがけず、強い。
「ありがとう」
「どういたしまして」
風が通り抜けたように、変化があった。圧しかかっていたものが消えたよう。
メアリーアンは、ふう、と息をつき、控えめながらもやっと笑う。クリストファーに身を寄せるように座り直した頃には、彼女らしさが戻っていた。
「だから言ったのに、なんて偉そうに聞こえるかもしれないけれど……」
言葉は不明瞭に消えて行く。とは言え、空気に溶けるというよりは、地に沈むと言った風。感傷ではなく怒りに近く、次の言葉に迷うようで、そしてそのうちに、
「あぁもう!」
クリストファーが身を引くほど強く叫び、メアリーアンはイスの肘に両手を叩きつけた。
「やっぱり、だから言ったのに! なのよ。だから!」
「だから?」
腕を組む従兄を、ちらりと見た。甘えついで。言うだけ言ってしまおう。
「そんなに想いを閉じ込めていたらいけなかったの。言ってしまったら良かったのよ。それがすべてなんだったら。
それを避けては生きていけないくらいのことなんだったら、ぶつけてしまって良かった。そうしたら少なくとも、こんなことにはならなかったわ。こんな、ひどいこと」
「そういう風にしか生きられない人間もいるよ」
「彼らの誰もが不幸だわ。こんな結末しかなかったなんて思いたくない。一人くらい、助かったって良かった」
「生き残った場合も不幸だろう。すべてを知った後となっては。あるいは、仕出かしたことの重さを知れば」
「それは時間が経てば……えぇ、今度は周囲の人たちだって放っておかないでしょう。探せばきっと道はあった。見つかったはずよ」
「そうかな」
「そうだわ」
挑戦的に上がる語尾を、かわすようにクリストファーは首を振った。空気を緩めるように笑む。




