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【第7回HJ大賞応募作】あなたを殺したのは私です―死んだ教師が暴く、最後の真実―  作者: 鷹司 怜


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【最終話】  『あなたを殺したのは私です』


 動画が始まる。


 映像は薄暗い。


 学校の空き教室だった。


 神谷悠真が映っている。


 少し疲れた顔。


 それでも穏やかな笑顔。


 美咲は思わず口元を押さえた。


 久しぶりだった。


 夫の笑顔を見るのは。


「もしこの動画が再生されているなら」


 画面の中の神谷が言う。


「私はもう死んでいるのでしょう」


 誰も言葉を発しない。


「まず謝ります」


「美咲」


「ごめん」


「娘を頼む」


 美咲の涙が溢れた。


「そして」


「この動画を見ている人へ」


 神谷は少しだけ笑った。


「たぶん皆は犯人を探していると思う」


「私を殺した犯人を」


 画面の向こうで神谷は首を振る。


「でも」


「違います」


 静かな声だった。


「私を殺した人は一人じゃない」


 部屋が静まり返る。


「理事長でもない」


「三浦先生でもない」


「白石隆一でもない」


 神谷は真っ直ぐカメラを見る。


「もちろん」


「私を橋から突き落とした人でもない」


 全員が息を呑む。


 神谷は。


 真犯人を知っていた。


 だが。


 名前を言わない。


「私を殺したのは」


 少し沈黙する。


 そして。


 微笑んだ。


「私です」


 美咲が顔を上げる。


 神谷の目は穏やかだった。


「もっと早く気付けた」


「もっと早く動けた」


「助けを求める声を」


「聞いていたはずだった」


 朝倉結衣。


 高坂遼。


 白石千尋。


 名前のない子どもたち。


「でも私は」


「忙しいを言い訳にした」


「仕方ないを言い訳にした」


「誰かがやると思った」


 神谷は目を伏せる。


「だから私は」


「教師として負けた」


 その言葉は重かった。


 責任を押し付けるためではない。


 自分自身への告白だった。


「でも」


 神谷は再び顔を上げる。


「これは私だけの罪じゃない」


「誰かが見て見ぬふりをした」


「誰かが黙った」


「誰かが諦めた」


「その全部が積み重なって」


「一人の子どもを殺す」


 神谷は静かに言う。


「だからお願いです」


「犯人を憎むだけで終わらないでください」


「次の子を助けてください」


「それだけでいい」


 沈黙。


 そして。


 神谷は最後に笑った。


 教師の顔だった。


「結衣」


「ごめんな」


「遅くなった」


 結衣の瞳から涙が零れる。


「高坂」


「よく頑張ったな」


「千尋さん」


「生きてくれてありがとう」


 神谷は深く息を吐く。


 そして。


「美咲」


「愛してる」


 美咲は泣き崩れた。


 動画が終わる。


 画面が暗くなる。


 誰も動かない。


 長い沈黙。


 その時だった。


 神谷はふと気付く。


 窓の外。


 朝日が昇っている。


 長かった夜が終わる。


 結衣が振り返る。


「先生」


 笑っていた。


 初めて。


 本当に穏やかに。


「ありがとうございました」


 神谷は何も言えない。


 結衣の身体が光に包まれる。


 ゆっくり。


 本当にゆっくり。


 空へ溶けていく。


「先生」


「今度はちゃんと」


「幸せになります」


 それが最後だった。


 朝倉結衣は消えた。


 神谷は空を見上げる。


 涙は出なかった。


 ただ。


 少しだけ。


 救われた気がした。


 一年後。


 学校は変わった。


 相談窓口が増えた。


 記録は残されるようになった。


 完璧ではない。


 それでも。


 前より少しだけ良くなった。


 美咲は娘の手を引いて歩いている。


 白石千尋は孫と笑っている。


 三浦は退職した。


 理事長は裁かれた。


 そして。


 神谷悠真は。


 誰の記憶からも消えなかった。


 なぜなら。


 人は二度死ぬからだ。


 一度目は命が終わる時。


 二度目は忘れられる時。


 神谷はまだ生きていた。


 誰かの心の中で。


 ずっと。


【完】

最後まで読んでくださり、本当にありがとうございました。

『あなたを殺したのは私です』は、犯人探しの物語として書き始めました。

けれど書き進めるうちに、私の中では少し違う物語になっていきました。

人は誰でも、「あの時こうしていれば」という後悔を抱えて生きています。

もっと優しい言葉をかければよかった。

もっと話を聞けばよかった。

もっと大切にすればよかった。

そんな思いは、時間が経っても消えることがありません。

この作品に登場する神谷も、朝倉結衣も、白石千尋も、それぞれ後悔を抱えています。

そしてきっと、読んでくださった皆様にも、それぞれの後悔があるのではないかと思います。

過去を変えることはできません。

失った時間も戻りません。

それでも、人は誰かを想い続けることができます。

その想いは決して無駄ではないと、私は信じています。

もしこの物語が、誰かを大切にしたいと思うきっかけになれたなら、作者としてこれ以上の喜びはありません。

最後に、あなたの大切な人が今日も笑顔でいてくれることを願っています。

ありがとうございました。

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