01話 目覚めた少年と彼に死を求める神
気が付けば僕の意識はあった。
しかし、意識が覚醒するのと同時に理解した。
『僕には過去の記憶が一切無いと。』
でも意識はあったので目を開けてみることにした。
「なんだ…ここ。」
目を開けると真っ白な空間が映り、何故か僕はその中心に座っていた。空間の四隅には巨大な玉座が四つあり、まるで僕を見下ろして監視するかのように取り囲んでいた。
そして目の前には、
サラサラで綺麗な銀髪と空色が混じったような色。
儚げで、今にも消えてしまいそうな空色の瞳。
華奢な服装をした少女が椅子に座っていた。
僕が見惚れていると少女は口を開けた。
「やっと目覚めたんだね。待ちくたびれたよ。」
少女は僕の目を見ながらそう言った。
「待ってた? 僕を? それってどういう…」
彼女は立ち上がると僕の元に近寄った。
「体調とかは大丈夫?」
「まぁ、大丈夫だけど…あの、貴方は一体誰なんですか? まるで僕を知っているかのような話し方ですけど……」
少女はクスッと笑いながら答えた。
「私の名前は刹那零無。この世の全ての始まりを担う零の神をやっているよ。」
すると、何故か僕の口が勝手に開いて思ってもいない発言をした。
「あぁ…あの罪人の。」
「―――っ!?」
僕は直ぐに弁明した。
「ごめん。口が勝手に……そんなつもりじゃ」
彼女は僕のそんな発言を聞き入れて、しんみりとした表情で答えた。
「まぁ、事実だからね。君が謝る必要はないよ。」
僕のせいで空気が悪くなった。でも彼女は、それすらも関係ないかのように僕に聞いてきた。
「君は自分の名前を言える?」
「僕の…名前」
この時はとても迷った。
今この場で名前を考えて口に出すか、素直に「覚えていない」と答えるのか…
でも誠実に答えてみようと思ったのだ素直に『記憶が無い』と答えた。
「僕は、自分の名前を覚えてないよ。それに記憶だって無い。まるで空っぽだよ。」
「ふ〜ん、記憶が無いのね。」
しばらく沈黙の間が続く。
「だったらさ、私が名前を考えてあげるよ!」
正直自分で名前を考える方が全然問題無いと思えたが、少女の目がとてもキラキラしていたので断れなかった。
「お願いするよ。でも、軽めのでお願い。あだ名みたいなものであれば………」
僕は、まだ出会ったばかりで見ず知らずの人に名前を付けて貰うのは、今後の足枷になりそうだったので『あだ名』みたいな軽いものでと頼んだ。
少女が必死に考えている。
そして途端に少女の寝癖のような髪の毛がピンと立った。
「剱崎優夜! 君の名前は剱崎優夜だ! これからは優夜くんって呼ぶね!」
正直全然重めだしあだ名でも無く普通に名前だった。でも、それが僕の名前となった。
「……剱崎優夜か。」
「じゃあ優夜くん! 私の事は刹那って呼んでね! その方がお互い話しやすいからね。よろしく!」
「分かった。今後は刹那さんって呼ぶよ」
そうして僕は刹那さんと握手した。
「ところで刹那さんに疑問なんだけどさ、」
「ん…何かな?」
「この空間って何? なんで僕はここに居るの?」
刹那さんは僕の問いに驚くほどあっさり答えた。
「あぁ…この空間ね。この空間は『始まりの間』。全てが始まり、始まっていた場所だよ。」
「始まりの間?」
「そうだよ! 始まりの間はね、『始まりを担う存在』、零の神である私を象徴する空間なんだ。だから普通ならここには居れない。だって、始まりは刹那のように終わり、去っていくものだから。」
「居れない? じゃあ何で僕はここに居るんだ?」
刹那さんはさっき座っていた椅子を撫でながら答えた。
「そう…本来ならここには居れない。だって、ここは始まりという名の通過点であり、居ることが難しいから。でも君は違う。この空間が、始まりという通過点が君を尊重しているんだよ。」
なんとなく分かった気がした。
本来ならば刹那のように終わる『始まり』、その通過点が僕を尊重してくれている。
何故かは分からない。
でも僕は、始まりの間に居るんだ。
♢
「じゃあ、さっそく…行こうか!」
「え? 行く? 行くってどこに……」
「この空間の外だよ!」
刹那さんは、混乱している僕の手を握って前へと走りだした。
「あの…僕は行くって言ってないけど…」
「でもさ、どのみちこの空間は出ないと何にも始まらないんだから。だったら、一緒に行ったほうがいいよね。」
「……確かに。」
僕は刹那さんに流れるように身を任せた。
走っていたら刹那さんが立ち止まった。
「え…まだ、先あるよ?」
「良いの! 見てて!」
僕は『なぜ道の途中で止まるのか』と思ったが、刹那さんが指を「パチンッ」と鳴らすと、辺りが途端に白い光で包まれた。
「眩しっ」
光が収まり目を開けると、僕は目の前の光景に目を奪われた。
♢
「うわぁ〜〜〜綺麗。」
「ね! 綺麗でしょ! 私はこの景色が大好きなんだ!」
そこにはほんのり星の光が届き、遥か彼方でこちらを見つめるような星々が輝いていた。
「そう言えばここってどこなんだ? なんか目の前にでかい建物が見えるけど……」
すると刹那さんは広大な宇宙に手を掲げながら答えた。
「ここはね、移動式天空城塞・弐式。かつて世界を旅して、宇宙を巡って、全てを旅した、空飛ぶ天空の城だよ!」
「城…空飛ぶ天空の城か。」
確かに言われてみれば目の前に城がある。
僕は宇宙を飛んでいるのか。
「この城の目的地ってどこなんだ?」
「え? 目的地は無いよ? だって今はただ浮遊して、放浪してるだけだからね。」
「目的地は…無いのか……」
僕はこの際、改めて刹那さんに聞くことにした。
「あの…刹那さんに改めて聞いてもいいですか?」
「ん? 何かな?」
「貴方は一体、僕に何をさせたいんですか? 貴方は記憶がない僕の事を知っているようでした。僕の何を知っているのですか?」
刹那さんは大事な部分を隠すように答えた。
「さっき、私は君が『始まりの間』が君を尊重しているって言ったよね。」
「確かに、言ってたけど…」
「『始まりの間』に居ることができるってのは、君には『資格がある』って事なんだ。
私の意志を……『零の神』を受け継ぐ資格が。」
「…資格……零の神?」
「そう…零の神! 零の神はね、全てのルールを作った始原の4柱の言われる絶対的な存在の一つなんだ。そして優夜くんは、そんな絶対的な存在になる資格を持っているんだ。」
資格? 資質じゃなくて、資格か。
資質と間違えたのかな?
そんな疑問を抱えながら、再度理由を尋ねる。
「それで刹那さんは僕に何をさせたいんですか?」
僕はさっき、はぐらかされたと思ったので再度聞いてみた。すると刹那さんは僕の瞳を見つながら今にも涙が落ちそうな悲しそうな表情をして答えた。
「私はね…罪人なんだ。それは消えない事実であり弁明の余地すらない。だからね、君に私の願いを叶えて貰うんだ。」
「―――願いって……何?」
「私は我儘なんだよね。そんな我儘な私が全てを差し置いても成し遂げたいたった一つの叶えたい願い。……それはね、優夜くんと旅をして、成長して、強くなるのを見届ける。それが私の願い。」
強くする?
記憶をなくした僕を?
資格があるから強くするのかな。
「資格があるから僕を強くするの?」
「違うよ。君を強くするのは、願いのその先、君が強くなって…いつか、いつの日か、強くなった君が罪人である私を殺して…全てを終わらせる。それが君に成し遂げてもらいたい私の願いと、その先。」
急にそう言われたので理解が追いつかなかった。
「え…殺す? 僕が、刹那さんを?」
「うん。それが私の我儘な願いだから。成長して強くなってよね、私を殺せるくらいに。それまで、私は気長に待ってるよ!」
星空が城を照らし、まるで祝福しているかのような輝きを放つ前で、刹那さんはそっと願いを言った。
僕は一体何なのだろう。
初対面の神様に「いつの日か私を殺してほしい」と願われ、その神の意思を引き継ぐ資格があると言われた。
何もわからないがこれだけは言える。
彼女の瞳の裏には、終始悲しみがあったのだと……記憶は無いがその事だけは確信していた。
執筆リズムを整えるため、今後は1話3000文字前後を目安に更新していきます!
本作は、連載中の本編『配神者』と深くリンクしています。あちらを読んでから本作を読み返すと、より世界観の「裏側」を楽しめるはずです。
次回は本日20時頃に投稿します。お楽しみに!
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