4 エリザベスの推理
「えぇ!?」
大きな声をあげたのはナヴァロ様だった。ルカ様は無言でこそあったが、表情は驚きに満ちている。
「俺を狙っているのは、母のはずじゃ……」
「えぇ、わたしも最初はそう思っておりました」
わたしはルカ様にうなずいて続ける。
「そうだとしたら、ナヴァロ様が暗殺されかけたことがおかしいんです。犯人はコックでした。戦争反対派の貴族たちがルカ様を無視してそんな行動をしたなら、すぐ足がつくはずです。反対派の誰かがやったのだろう、と。ですが……」
「コックは自死した……」
マリア様が後を引き取った。舞踏会の日に、マリア様も同様の推理していた。
──「王宮のコックがナヴァロ様を暗殺したとて、メリットがあるとは思えない。裏に指示をした人物がいる。その人物に辿らせないために、コックは自死をしたと考えるのが自然でしょう」
エヴァレット王は表情を変えない。貫禄のある重たい視線がわたしに突き刺さる。
「そうです。しかし、コックが自死したとて、戦争推進派の表の筆頭であるナヴァロ様の命を狙った容疑者なんて、すぐに割り出されるはず。だから、自死する理由がないんです。しかし、今の今まで犯人は判明していない……これって、コックに指示を出した犯人が戦争反対派の貴族ではなくて……」
「戦争推進派の貴族……もしくは貴族以上の地位の人物……」
ナヴァロ様が唖然としながらエヴァレット王を見つめる。
「そう。戦争推進派の真の筆頭はナヴァロ様ではなく、エヴァレット王。あなたがコックに指示をしてナヴァロ様を殺害しようとしましたね?」
わたしはエヴァレット王を指差す。彼は焦る素振りすら見せずに、余裕そうに顎を撫でた。
「……いい筋書きだな、面白い」
「…………」
褒めているような口ぶりだが、その目は暗く濁っている。わたしは気圧されないように、精一杯エヴァレット王を睨みつけた。わたしの睨みなど毛ほども気にせず、エヴァレット王は言う。
「なぜ、ルカを殺そうとしたのがシャーリーンではなく、俺だと?」
「あなたにとって、戦争反対派のルカ様が邪魔なのは変わりないはずです。シャーリーン様の仕業に見せかけて、ルカ様暗殺を企み、実行していたのではないですか?」
「だから俺は母に命を狙われていると思い込んでいたのか……!」
話を聞く限り、ルカ様はすべての暗殺を回避してきたようだが。先ほどの強さを知ってしまえば、そもそもルカ様を暗殺すること自体が難しいと察するにあまりある。
「ですが、ルカ様を殺せなかったあなたは別の策を考えた」
「別の策?」
ここで初めて、エヴァレット王の片眉がほんの少しだけ動いた。わたしは叩きつけるように続ける。
「……相打ちを狙ったんです。ナヴァロ様とルカ様がお互いを憎み合い、殺し合うように差し向けようとした。先ほどわたしとマリア様の処刑人に指名したのも、ルカ様の憎悪を煽るためでしょう?」
「…………」
エヴァレット王は何も言わない。みんなの注目が集まる中、おもむろに椅子から立ち上がった。わたしは思わず、一歩後ろに下がった。
怯んじゃいけない……!
頭では理解しているのに、王の威圧感がわたしを怯えさせた。机の前にまで歩いてくると、エヴァレット王はパチパチ、とスローな拍手を始めた。耳にねっとりと張り付いて離れない、不気味な音だった。
エヴァレット王の行動に予測がつかず、みんなが動けずにいると、彼は満足そうに口を開いた。
「半分正解で、半分不正解だ」
「半分……?」
また意味のわからないことを言われる。
「ここまできたお前を認め、教えてやろう。確かにルカを殺そうとしていたのは俺だ」
「……っ」
ルカ様は腰に下げた剣に手をかける。が、引き抜きはしなかった。悔しそうに唇を噛み、震えている。心中を察するに余りある。父親に死を願われていたのだから。
わたしはルカ様の背中にそっと手を添えた。彼がさっき、わたしの拳に手を添えてくれたように。ルカ様は我に返ったようにわたしを見る。その視線に微笑み返すと、わずかだが、震えが落ち着いてきた。
「どうして、実の息子にそんな酷いことができるんですか!?」
わたしはルカ様に代わって吠える。しかし、エヴァレット王は心底おかしくてしょうがないかのように「あっはっは」と腹を抱えて笑った。
「邪魔だからだよ!」
返ってきたのは信じられない返答だった。
「俺はこんな小さな国で王をやる器じゃない! もっと大きな国で頂点を統べるべき人間であり、ここは俺の居場所じゃない! そのために、ルカもナヴァロもシャーリーンも……全員邪魔なんだよ!!」
「そんな……」
わたしは絶句してしまう。
そんな自分勝手な理由でたくさんの人を死に追いやって、戦争までしようって言うの……!?
信じられない、信じたくない。この人がわたしのいる国の王だなんて。
エヴァレット王はその瞳をギョロリとナヴァロ様に移動させた。
「だが、ナヴァロ、お前を殺そうとしたのは俺じゃない」
「え……」
予想外の真実にナヴァロ様は目を見開く。
「じゃあ、誰が、ナッツを……」
ナッツがナヴァロ様にとって毒のようなものだと知っていた人物。
そして、コックが自死をしても足がつかない人物。
それは──エヴァレット王に続いて、もう一人いる。
一人だけ。
「まさか……」
わたしがその人物に思い当たるのとドアが大きく開かれるのは同時だった。
「シャーリーン様……!?」
ドアの向こうには、ナイフを持ったシャーリーン様が鬼のような形相で立っていた。
「死ねぇぇぇ!!」
シャーリーン様が咆哮をあげながら突っ込んでくる。
ナイフの矛先は──わたし。
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