6 出発
隣から発せられる低音に、わたしは思わず肩を震わせた。ルカ様が恐ろしい形相でわたしを睨みつけている。
「お前が処刑されて、残された人間に何の影響もないと、本気で思っているのか?」
その問いに、わたしは首を傾げる。
「……ないでしょう?」
ルカ様の真意がわからないわたしに、兄弟は揃って大きなため息をついた。ナヴァロ様が「お前も大変だな」とルカ様に労いの声をかける。
……あれ。
ルカ様が少し寂し、そうな……。
なんだか胸のあたりが痛くなる。
わたしがいなくなることで、残されたルカ様に影響があるってこと……?
それが理由で、そんな顔をしてくださるなら、わたしは……。
痛かったあたりが、徐々に温かみを帯びてくる。わたしはきゅ、と拳を握った。
「聖女を探しに行くなら俺もついていく」
「えっ!? 危険です!」
「お前一人よりは安全だ。万が一、ヨールド団に見つかっても、俺がいればその場で処刑ということにはならない」
確かに……。
第二王子のルカ様が庇っていただければ、捕まるかもしれないが命だけは助かる可能性が上がる……ただ、ルカ様に迷惑をかけてしまうことにはなる。
チラリ、とルカ様を伺う。
「俺を連れて行かないなら、お前をここから出さない」
ここまで言われてしまえば、わたしもうなずかざるを得ない。
「……わかりました、ご迷惑をおかけします」
ルカ様に体を向き直して頭を下げると、
「かけてるのは心配だ」
訂正されてしまった。
「……ご心配をおかけします」
今まで言ったことのないセリフを口にして、場違いにくすぐったく感じる。わたしは顔を上げて、一つ咳払いをした。
「マリア様は故郷の恋人に会いたいと仰っておりました。ナヴァロ様、場所を知っていますか?」
「あぁ、わかるよ。ヨールド団もおそらく、王宮近隣を探した後、そこに向かうと思う」
ナヴァロ様から地図を受け取る。
「馬車で行くなら一日はかかると思う」
一日……。
致し方ないが、少し歯痒く感じる。国王様の捜索隊はすぐ来てしまうのに。
「いや、馬車では行かない」
わたしの焦りを感じ取ったように、ルカ様が言った。
「エリザベス、馬に乗ったことはあるか?」
一瞬何を尋ねられているのかわからなかった。
馬車ではなく、馬に乗る……?
馬を走らせるってこと!?
「乗ったことはありません、が……覚悟ならあります」
一人で馬を走らせることはできないけれど、ルカ様が一緒なら、わたしはなんだってできる気がする。
わたしの決意を聞いて、ルカ様はニヤリと笑った。
「いいだろう、動きやすい格好に着替えてこい」
侍女から服を借りて戻ると、ルカ様も同様に着替え終わっていた。わたしとルカ様とナヴァロ様はこっそりと馬小屋に向かう。マリア様脱走でバタバタしているせいか、馬小屋への道のりには誰もいなかった。
「王宮の西門から真っ直ぐ行けば、すぐに大通りに出て、右に曲がればあとは一本道だ」
ナヴァロ様の説明を聞きながら、わたしとルカ様は馬小屋の中でも特に大きな馬に乗る。体躯も立て髪も白くて、どこか神々しい馬だ。
「よろしくね」
わたしが馬に声をかけると、少しだけ首を振った。
「ここから西門まではエリザベスが着替えている間に人払いをしておいた、誰にも見つからずに出られるはずだ」
「ナヴァロ様……」
「僕ができるのはこれくらいだからな」
お礼を言う前に、ナヴァロ様は言葉を重ねてきた。そして、ルカ様のほうを見る。
「ルカ、今まですまなかった」
「……許すことはないけどな」
「それでいいさ、僕が謝りたいだけなんだから」
「……ふん」
ルカ様が馬の胴体を蹴って走り出す。わたしたちはマリア様の故郷へと向かった。
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