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5 マリアのために

 シャーリーン様の妊娠中に、エヴァレット王が不倫をしたということ……!? 国王に愛人がいるのは暗黙の了解だと思っていたけれど、妊娠中の不安定な時期にされたら……。


 想像して、わたしはシャーリーン様に同情した。


 妊娠出産が終わった今でも、シャーリーン様はエヴァレット王に愛人がいることを好ましく思っていないようだし、ましてや妊婦のときとなると尚更、感情が抑えられなくなるだろう。


 となると、すべての元凶はエヴァレット王……!?


「ちょ、ちょっと待ってください、状況を整理したいです」

 わたしが提案すると、二人ともうなずいてくれた。


 時系列順に考えたい。


 正妻であるシャーリーン様が身籠っている中、エヴァレット王はミスティ様と出会い、聖女として王宮に滞在させる。


 そしてナヴァロ様が生まれ、同年にルカ様も生まれた。


 しかしその直後、ミスティ様はナヴァロ様に毒を盛った罪で王宮追放される。


 十数年後、エヴァレット王が町医者をしていたマリア様を見初め、王宮に聖女として迎える。その実は愛人。


 その一年後、わたしがルカ様と結婚し、マリア様に弟子入り。


 ……なるほど。


「今、マリア様が王宮から脱走し、エヴァレット王が連れ戻そうと躍起になっています。そのせいで王宮内は混乱し、シャーリーン様が過呼吸になりました」


 わたしが喋り終わると同時に、ナヴァロ様が口を開いた。


「おそらく、お父様はマリアを見つけたら、処刑するかもしれない」

「え……?」


 急に出てきた「処刑」という恐ろしい単語に、わたしは言葉を失った。ナヴァロ様の表情は至って真剣だ。


「お父様のあの怒り方はそれくらいしてもおかしくない。昔から恥をかかされたと思ったら、側近だろうと容赦無く処刑してきたんだ。あまり表に顔を出さないけれど、内側では恐怖政治で臣下たちを支配しているよ」

「そんな……」


 ルカ様のほうを見やると、わたしの視線を受けて、どうにもできないというふうに、彼は無言で首を横に振った。国王のそういう側面は息子たちの間で知れ渡っているようだ。


 そういえば、わたしが伯爵令嬢として知るエヴァレット王は貴族の前ではかなり寡黙な方で、人物像がふんわりとしか捉えられなかった。代わりに側近がほとんど、外務交渉を担っていたのだろう。


「なんとかマリア様を助けられませんか?」

 わたしは懇願するようにナヴァロ様を見る。ナヴァロ様は顔をしかめた。


「お父様は間違っている。僕だってそう思う。でも……国王相手に、息子の僕達じゃ……」

「…………」


 ルカ様も何も言わない。国王というのはそれだけの権力を持つ。しかも、二人はエヴァレット王に逆らえないよう教育されてきているはずだ。


 家族の中で差別され、虐げられてきたというルカ様。母親から虐待を受けていたナヴァロ様。それらを黙認していた絶対的王者、エヴァレット王。


 エヴァレット王が彼らに直接手を下したエピソードこそ聞かないが、「王」という身分上、逆らえないという思い込みがある。王族だからこそ。王に逆らうには、革命を起こすしかない。それは実の父を手にかけることになってしまう。


 かといって、王の意にそぐわない行動をすれば、どんな罰が与えられるのかわかったものじゃない。


 ……ならば。


「わたしがやります」

「え?」


 第一王子と第二王子の視線がわたしに集まる。瞳こそ違うが、兄弟っぽさを感じた。わたしは彼らに自分の考えを告げる。


「わたしがマリア様をエヴァレット王より先に見つけ出し、保護します。お二人はわたしが勝手にやったことにしてください。処罰はすべて、わたしが一人で受けますので」


「そんな無茶だ!」

 ナヴァロ様が声を張り上げた。


「そうだ、お前一人が犠牲になる必要はない!」

 ルカ様もわたしを止める。


「王子であるお二人がエヴァレット王を裏切ってマリア様を匿ったとなれば、エヴァレット王、シャーリーン王妃、どちらからも重罪を言い渡されると思います」


 わたしは一人ずつ、目を合わせながら話す。


「わたし単独の行動となれば、外から来た嫁入りの人間一人を処罰すれば済むでしょう、簡単な話です」


 わたしを育ててくれた両親には迷惑をかけるかもしれない。それだけが心残りだ。


「……最悪、処刑されるぞ」

 ……死ぬ、か。


 ナヴァロ様に王子暗殺の犯人扱いされたときも、死を覚悟したっけな。なんだか遠い昔のように感じる。


「……構いません」


 わたしは言い切った。


 思い出されるのは、騎士に囲まれたわたしの前に颯爽と現れた、凛とした美人。煌びやかなドレスを身に纏って、涼しい声でわたしの無実の罪を晴らしてくれた。


 綺麗で、強くて……可愛らしい女神様。


「今度はわたしの手で、今度はマリア様を救いたいんです」

 あのとき、マリア様がわたしを救ってくれたように。


「わたしが処刑されるだけなら、お二人には影響がないでしょう?」

「それは……そうだけど……」


 ナヴァロ様はさすがに言い淀んだが、肯定的だ。他人に「自分が死ねばお前が幸せになる」なんて言い渡されて、簡単に「そうです」とうなずけるわけもない。


 ルカ様もきっとわかってくれるはず……。


「影響がないだと?」

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