表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
27/45

4 ナヴァロの懺悔

***


「そんな……ことが……」


 わたしは思わず両手で口元を覆った。


 五歳の子供が母親からナイフを投げつけられるなんて、トラウマになって当たり前だ。


 エヴァレット王への詰め寄り方からしても尋常じゃない気迫を感じたが、常にそれを向けられていたのが、ナヴァロ様だったんだ。


「それでも、倒れたお母様を見て『死んでしまえ』とは思えなかった。エリザベスが助けてくれて、ほっとしている自分に嫌気がさすよ」

「嫌気がさす必要、ないと思います」


 自嘲気味に笑うナヴァロ様に、わたしは口を挟んだ。わたしの言葉に、俯いていたナヴァロ様は顔を上げる。


「どんなに酷いことをされても、ナヴァロ様のお母様はシャーリーン様しかいませんもの。お母様を大切にされているナヴァロ様は立派だと思います」


 それだけのことをされたら、たとえ親だろうと縁を切りたくなる。そんな親が酷い目に遭っていたら自業自得の文字が頭をよぎる。


 でも、ナヴァロ様はそうは思わなかった。それは彼の心が強く、広く、そして優しさに満ちているからだろう。


「ナヴァロ様のそのお気持ち、わたしは尊敬いたします」


 真っ直ぐとナヴァロ様を見つめる。


「エリザベス……」


 ナヴァロ様もわたしの視線を正面から受け止めた。綺麗なアクアブルーがだんだんと潤んでくる。


「僕は君に怪我をさせようとした。お母様と同じだ。こんな僕を、許してくれるのか……?」


 彼の大きな瞳から涙が溢れた。


 ナヴァロ様がわたしに小瓶を投げつけたこと。シャーリーン様がナヴァロ様にナイフを投げつけたこと。


 嫌だと思っていた母親と自身が重なっていることを実感したのだろう。嫌悪感、罪悪感──これから変わりたいという気持ちが伝わってきた。


「怪我をさせようとした、とはなんだ?」


 ルカ様の低い声が執務室に響く。そういえばルカ様には黙っていた、ような……。


「実は……以前、ナヴァロ様に二階から空き瓶を投げられまして」

「はぁ!?」


 ルカ様は大きな声を出した。思わず目をギュッとつむる。


「いや、すまない……」

 こういうとき、ルカ様は毎回謝ってくれる。優しいお方だ。


「でも、大丈夫です! 頭に直撃とかはなく、破片でちょっと足を切っただけで……!」

「足を切った!?」


 突風が吹いたような勢いだったが、わたしも今度は怯えなかった。


「兄様……!」


 ぎろり、とルカ様がナヴァロ様を睨みつける。ナヴァロ様は口を真一文字に結んでいた。大粒の涙を滝のように流しながら頭を下げる。


「本当に、申し訳、なかった……!」

 涙はカーペットに落ちて、沁みた。


「…………」


 ナヴァロ様の後悔と懺悔。泣きじゃくりながら、過去馬鹿にしていた相手であるわたしに頭を下げている。彼にだって第一王子の彼には高いプライドがある。のちに一国を背負うことになるのだから当然だ。そういうものをすべて押し除けて、わたしに許しを乞うている。


 きっととても大変なことで、それをできることが、シャーリーン様とは違うところ。


「はい、許します」

 わたしは微笑んだ。ナヴァロ様が顔を上げる。鼻水も出ていた。美形が台無しだ。


「いいのか……?」

 ナヴァロ様の言葉に、ルカ様が立ち上がった。


「エリザベス! 許さなくていい! 一歩間違えれば死んでいたんだぞ!」

 わたしはゆっくりと首を横に振る。


「ナヴァロ様を許します。シャーリーン様と同じだと仰いましたが、ナヴァロ様はナヴァロ様です」

「……っ、お前は……っ!」


 反論するルカ様をキッと見上げる。


「お忘れですか? わたしはすべての人を救いたいのです」

「…………」


 ルカ様と見つめ合うこと数秒間。心臓ごと射抜かれそうな視線に耐えていると、先に目を逸らしたのは向こうだった。ルカ様は額に手を当てながら、どかりとソファに座り直して、


「……お前はそういうやつだったな……」

 と、諦め口調でため息をついた。


 どうやらルカ様もわたしの判断に納得してくれたようだ。


「エリザベス……ありがとう……」


 ナヴァロ様がゆっくりと手をこちらに伸ばしてくるが──わたしの目の前で、その手はルカ様によって叩き落とされた。


「俺の妻だが?」

「…………」

「…………」


 兄弟の間で視線が交わされた。バチバチと火花が散っているようにも見える。ナヴァロ様はハンカチを取り出して、顔を乱暴に拭いた。繊細で整った容姿と似合わず、豪快なところがあるのかもしれない。


 元の美形に戻ると、ナヴァロ様はふぅと息を吐いた。


「うちの家系で不倫はよくあるからね」


 ルカ様が無言でナヴァロ様を睨みつける。


「不倫がよくある?」


 確かに、今回はマリア様を無理矢理愛人にしていたようだけれど……。


 わたしが聞き返すと、ナヴァロ様はきょとんとした顔で言った。


「知らない? 僕がお母様のお腹にいる時、お父様にできた愛人が、元聖女──ルカの母親だよ。そのせいで、お母様が荒れてたんだ」

読んでくださり、ありがとうございます!

ぜひ☆やリアクションをポチッとよろしくお願いします!

感想やレビュー、励みになります!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ