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2 恋バナ


 確か、マリア様は田舎で医者をしていたところを王宮に連れてかれたって以前言っていたはずだ。


「マリア様が王宮に来たのって……」

「一年前よ」


 それじゃあ、連絡を取れなくなってから一年が経ったってこと……!?


 将来を誓った恋人同士に、なんて酷い仕打ち。


「元聖女──私が弟子入りした後、ミスティ様が保護したのが彼なのよ。彼以外にも、何人か孤児を育てていたらしいわ」

「ミスティ様……」


 元聖女で、ルカ様のお母様。


 孤児の保護活動なんて、慈愛の塊のような人だ。ルカ様がお優しいのは、きっとお母様の遺伝だろうな。


 親子揃って、困っている人間に手を差し伸べてしまう性なのかもしれない。


「じゃあ、マリア様と婚約者様はミスティ様のもとで……?」

「そうよ。彼も弟子入りしようとしたけど、あまりにもおっちょこちょいでね」


 マリア様は思い出し笑いをしながら、話を続ける。


「彼は私の補佐として医療従事者になったの」

「マリア様と良いコンビだったんですね」


「あはは、そうかもしれないわ。でも彼と私はよく衝突した。納得しないと処置をしない私と、全員を救おうとする彼。全員なんて救えるわけないのに、一生懸命で本気で……そのうち私は彼に惹かれていった。彼も、私のこと……」


 マリア様は口をつぐんだ。そっぽを向いて、

「可愛いって言うのよ……」

 と、耳まで真っ赤にしてつぶやいた。


 ……彼の気持ちがよくわかる。


 マリア様の外見はもちろん美しいが、性格がサッパリとしていて、お世辞にも可愛いとは言えない。


 しかし、彼はマリア様のこういうところに気づき、惚れたんだ。


 惚気に慣れていないマリア様。

 外見を褒められることは数え切れないほどあっても、内面を知った上で「可愛い」と評価される機会は少なかったと容易に想像できる。


 すごく嬉しかったんだろうな……。


 話を聞いている限り、彼はマリア様より年下のような気がする。


 真っ直ぐで一生懸命で、ストレートな愛の言葉を投げかけてくれる、そんな彼はマリア様にピッタリだろう。


 マリア様って、ちょっと捻くれてるし。


「今、何か失礼なことを考えなかった?」

「いいえ。ただ、可愛らしいなと思って」

「エリちゃんまで、私を可愛いって言うの〜?」


 マリア様は照れくさそうに笑う。


「ねぇ、エリちゃんはないの?」

 ずいっと顔を近づけてきた。ばさばさのまつげが瞬きする度に、小さな星が落ちてきそうだ。


「ないのって、何がですか?」

「ルカ様との浮いた話!」

「あっ」


 しまった。口を滑らせた。

 私の一瞬の隙を見逃さなかったマリア様は、ニンマリと口角を上げた。


「教えてよ、何があったの?」

「いやぁ、そのぉ」


 顔を逸らして、話も逸らしたいが、期待に満ち溢れるマリア様の瞳から逃れられる気がしない。


「事情があるとはいえ結婚してるんだから、イチャイチャしたりしないの〜? したんでしょ〜? 言いなさいよ〜?」


「えぇと……」


 絶対に吐かせる、という決意と、何があったのか知りたい好奇心にあてられ、わたしは観念して白状した。


「その、き、き、キ……」

「えぇ!? ルカ様とキスしたの!?」

「ちょ、声が大きいです!」


 マリア様は聖療院中に響き渡るんじゃないかというくらいの声量で全部言った。言ったというか叫んだ。

 そんな彼女の口を両手で塞ぐ。「モゴモゴ」と何か言いたそうにしている。

 苦しそうにトントンとわたしの手を叩くので、解放してあげると本当に窒息しそうだった。


「ごめんって……。えぇ、じゃあ契約結婚から真実の愛になったの? よかったじゃん、おめでとう!」


 パチパチと小さな拍手を送ってくるマリア様に、わたしは素直に感謝をできなかった。

 わたしの様子を察してか、「え?」と彼女も怪訝な顔をする。


「ルカ様に告白されて、キスされたのよね?」

「告白はされていなくて……」


 わたしは首を横に振る。


「こ、告白されていないのにキスされたの!? どういうこと!?」

「わたしにもわからないんです……。おそらく、同情?」

「ど、同情!?」


 確か、キスをされたときは……お互いの境遇を思い合っていたはずだ。


 ずっと孤独で過ごしてきたルカ様と、魔女と呼ばれ気味悪がられ続けたわたし。


 きっとミスティ様と同じ、慈愛の精神でわたしにキスをしてくれたのだろう。そうでなければ、わたしなんかにキスをするはずがない。


 ……わたしはキスされて嬉しかったんだけどな。


 この気持ちはしまっておかなければならない。


 ルカ様はわたしを好きで、キスしたわけではないのだから。


「そ、そっか……。告白されてないなら、相手に聞かないと何考えてるのかわからないわよね……」


 頭を抱えてしまうマリア様だったが、すぐに顔を上げた。何か思いついたらしい、またニンマリとした笑みを浮かべていた。


「だったら、確かめたらいいんじゃない?」

「確かめる?」

「ルカ様の気持ち!」


 マリア様はわたしの両手を持って立ち上がった。引っ張られるがまま、わたしも椅子から立ち上がる。


 ルカ様の気持ちを確かめる……?


「ど、どうやって……?」

「決まってるでしょ!」


 聖女特大のウィンクを決めて、マリア様は高らかに言った。


「デートに誘うのよ!!」

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