第63話:四十一人の月例会、そして外側からの不穏な信号
ヴォイド・コア最上階、多次元監査神殿の円卓。
今宵、そこには、四十一人の銀髪の少女に加え、新規入荷分のE-10000、E-78423、E-56789、E-22001(とジュリアン第22001世界)、そして「ただの・エリザベート」までもが、招待を受けて出席していた。
「皆様、初めての『月例会』ですわ。お忙しいところを、ありがとうございますわ」
主座のエリザベートが、新調した銀の扇を広げ、艶やかに微笑んだ。
円卓の中央には、E-56789が焼いた、巨大なクロワッサンのタワーが、誇らしげに鎮座している。
「では、近況報告を、お一人ずつ。E-102から、お願いいたしますわ」
「は。私の世界では、車椅子の補助具開発が、軌道に乗っております。月産三千台、利益率二十パーセント。雇用拡大、二百人」
「素晴らしいですわ」
「私の世界では、孤児院の運営が……」(E-999)
「私の世界では、修道院を改装して、女性専用の魔導学校を……」(E-514)
「私の世界では、ジュリアン氏との『元・婚約者カウンセリング事業』を……」(E-22001)
各次元のエリザベートが、次々と、自分の事業の報告をしていく。
報告の合間に、誰かがクロワッサンのタワーから一つ取り、隣へ回す。数字と数字の間に、バターの匂いが挟まる。
かつて、この円卓に集まった同じ顔たちは、監査通知書を握って震えていた。今は、四半期の粗利率で笑っている。
その内容は、もはや「ざまぁ」ではなく、「経営」だった。
円卓は、静かに、宇宙最大の「女性経営者ネットワーク」へと、進化していた。
「……ふふ。皆様、それぞれ、立派な事業主におなりですわね」
エリザベートは、満足げにクロワッサンを一口齧った。
「私からは、本日、新しいルールを一つ、提案いたします。……『お母様』『お姉様』の呼称、廃止いたしましょう。今後は、お互いを『同志』とお呼びくださいませ」
「あら、まあ」
「素敵ですわね」
円卓のエリザベートたちが、一斉に頷く。
その瞬間、月例会の場が、序列を持たない、対等な円卓へと、書き換えられた。
セレーネが、議事録の呼称欄を、一括で置換する。四十七箇所が、一度に「同志」へ変わった。
そこで、E-56789が、ふと、手を挙げた。
「同志・001さん。……提案があります! 月例会、毎月、私のお店の新作パンで開催するの、いかがかしら?」
「あら、結構ですわね。……来月の議題は、『各次元の小麦の関税撤廃』にいたしましょう」
会場が、笑いに包まれた。
ただの・エリザベートが、隅で、静かに微笑んでいた。
女帝の覇道が、ようやく、「勝つ」依存を抜けて、「営む」段階に入った瞬間だった。
その時——
円卓の中央に、不意に、見慣れない通知が、ぽつりと点灯した。
いつものE-XXX形式の通知ではない。
もっと古い、もっと外側の、もっと無機質な書式の通知だった。
『送信元:座標不明(既知次元の外側)
件名:プロジェクト・キャンセル通告
本文:当該物語シリーズ、全宇宙規模での回収を、近日中に開始する。
受領確認は不要。』
「……あら」
エリザベートの扇が、ぴたりと止まった。
円卓の四十名以上の少女たちが、一斉に、彼女を見つめた。
「セレーネ。送信元の追跡は」
「不可能でございます、お嬢様。……この信号は、私たちの知るどの次元、どの並行世界、どの天界——どの『内側』からも、発信されておりません。……宇宙の『外側』、としか、表現のしようがございません」
「……」
「さらに。差出人欄が、奇妙でございます」
セレーネが、通知の最下段を、円卓に投影した。
そこには、たった二文字、こう書かれていた。
『読者』
エリザベートは、その二文字から、しばらく目を離さなかった。
「……読者、ですって?」
「お嬢様。私たちは、ファウスト氏を解体し、原典編纂委員会を粉砕いたしました。……ですが、もしかすると、その上に、もう一人——『本を読んでいる側』が、いたのかもしれません」
クロワッサンのタワーから、湯気が細く上がっている。
誰も、それに手を伸ばさなかった。
ただ、四十名以上のエリザベートが、一斉に、自分たちの「物語」を読まれている、その視線の存在を、初めて感じ取った。
天井でも、扉でもない。もっと遠い、どこにも属さない場所からの視線だった。
「……陛下」
エリザベートが、隣のカエルスに、ゆっくりと振り返った。
「私たちは、ようやく、本当の最終ボスに、お目にかかれそうですわ」
「……ああ。これは、銀行家でも、神でもないな。……我々の存在そのものを『鑑賞』していた相手だ」
エリザベートは、扇を閉じ、円卓を、ぐるりと見渡した。
「皆様。月例会は、無事に閉会といたしますわ。……ですが、ここから先は、誰一人、安全ではございません。……新しい章を、開かせていただきますわよ。名を付けるなら——『召喚士の襲来』」
四十名以上の妹たちが、一斉に、頷いた。
誰も、逃げ出さなかった。
誰一人として、彼女たちは、もう、ただの「商品」ではなくなっていた。
第二章、無事に閉幕ですわ。
女帝、ようやく「お母様」を卒業して、「同志」になりましたわね。
ですが——『読者』という未知の差出人。これは、本作で最大の、メタ的なボスでございますの。
次の章では、宇宙の物語を「鑑賞」している側に、女帝が反撃してまいります。まずは、その方が誰なのか——編集者なのか、それとも、ただの読者なのか。
【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】、最終ボス戦のチケットとして、ぜひ。




