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婚約破棄、承りました。ですが私の管理していた「国家予算」「精霊の加護」「魔導防衛網」は全て私有財産ですので、回収させていただきますわね?  作者: 桐谷ルナ


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第45話:カエルスの溜息:君の「秘書」を名乗る不届き者が現れたが?

「――ハァ。……これほどまでに『異物』が湧き続けるのなら、やはり一度、多元宇宙そのものを熱消毒すべきではないか、エリザベート」


 ヴァレリア王国の汚染された空気を背に、帝国の旗艦『アウレリウス』の艦橋へと戻るなり、カエルスは重苦しい溜息を吐いた。

 彼の周囲には、不機嫌さのあまり物理的な霜が降り始めている。漆黒の外套が揺れるたびに、絶対零度の魔圧が空間を軋ませていた。


「あら。熱消毒だなんて、そんな非効率な。……死滅した生命体は納税できませんわよ、陛下」


 エリザベートは優雅に扇を畳み、夫の冷たい頬を指先でなぞった。その指先に宿る黄金の熱が、カエルスの凍てついた心をわずかに溶かす。


「……だが、鼠が多すぎる。私の腕の中にいるべき君の時間を、どこの馬の骨とも知れぬ『転生者』たちの後始末に費やすのは、宇宙に対する冒涜だ」


「ふふ、愛されて光栄ですわ。……ですが、セレーネ。……次の『不法侵入者』は、少し趣向が違うようですわね?」


 エリザベートの視線の先――。

 厳重なセキュリティで守られた艦橋の中央、座るべきあるじを欠いたエリザベートの執務デスクの前に、一人の男が立っていた。


 銀髪を完璧なオールバックに整え、一分の隙もない漆黒の三つ揃いスーツを着こなした青年。

 彼はセレーネと同じく無機質な、しかしどこか「挑発的」な笑みを浮かべて深く頭を下げた。


「――お初にお目にかかります、偉大なる女帝エリザベート陛下。……および、その守護者たるカエルス皇帝。……私は転生者ギルドより、貴女様の『業務最適化』のために派遣されました、エグゼクティブ・秘書官のルシフェルと申します」


「ルシフェル? ……あら。随分と使い古された、著作権的に怪しいお名前ですわね」


 エリザベートは玉座に座ることなく、その男をじっくりと、値踏みするように見つめた。


「ギルドからの派遣? ……いいえ、正確には『トロイの木馬』、あるいは『監視用のデバイス』と呼ぶべきかしら?」


「左様でございます。……ですが、私はセレーネ殿のような『旧時代の事務処理』しかできない補助機械とは違います。……現代日本の最先端コンサルティング理論に基づいた、戦略的ディシジョン・メイキング。それこそが、貴女様の帝国に欠けている最後のピース(資産)です」


 ルシフェルが指を鳴らすと、エリザベートの目の前に数百のホログラム・ディスプレイが展開された。そこには、帝国の全資産、物資流通、因果律の変動グラフが、現代の金融工学に基づいた難解なチャートとして整理されていた。


「陛下。セレーネ殿の管理下では、第81世界の廃液処理に伴う経済損失を $12\%$ 見逃しています。……ですが、私を雇用いただければ、損害賠償を『環境債権』として証券化し、他世界の投資家に売りつけることで逆に利益を生み出せます。……これが、真の『内政無双』です」


 セレーネの瞳が、青い光を帯びて微かに明滅した。

「報告。……ルシフェル氏の提案するスキームは、帝国の倫理規定コンプライアンスの第4条『弱者からの二重搾取』に抵触する可能性が $89.4\%$ です。……お嬢様、この男の解体デリート許可を」


「待て」


 カエルスが、一歩前へ出た。

 彼が抜いた漆黒の剣の先が、ルシフェルの眉間を正確に捉える。


「貴様。……君の秘書を自称したその不敬は、一万回の死を持ってしても償い切れん。……エリザベートの隣に立っていいのは、私が認めた忠実な『道具』か、私だけだ」


「……おやおや。皇帝陛下は、物理的な破壊以外に興味がないご様子。……それでは、いずれ彼女の『知性』についていけなくなりますよ? ……愛とは、共通の『言語ロジック』を持ってこそ成り立つものですから」


 ルシフェルの言葉に、カエルスの魔圧が爆発的に膨れ上がった。艦橋の強化ガラスに亀裂が入り、警報が鳴り響く。


「陛下。お下がりなさい」


 エリザベートの静かな声が、荒れ狂う嵐を瞬時に鎮めた。

 彼女はゆっくりとルシフェルに歩み寄り、その胸元に飾られたピンバッジ――転生者ギルドの紋章を、扇の先でなぞった。


「ルシフェルさん。……貴方のプレゼンテーション、一点だけ致命的なミスがございますわ。……『私を助ける』と仰いましたが、それはつまり、私の管理能力が貴方より劣っているという、明白な『不当評価』に当たりますの」


「……っ。それは、あくまで効率化の提案で……」


「いいえ。……さらに、私の許可なくこの艦に侵入し、帝国の内部データを無断で解析した。……これは『不正アクセス禁止法違反』、および『産業スパイ罪』の現行犯ですわ。……本来ならその場で、魂をシュレッダーにかけて差し上げるところですが……」


 エリザベートは妖しく微笑み、ルシフェルの喉元に指先を添えた。


「……面白いですわね。……転生者ギルドが、私に『言葉ロジック』で挑もうというのなら、受けて立ちましょう。……貴方を、帝国の『試用期間インターン』として雇用して差し上げますわ。……役職は『外部監査用生贄』、および『カエルス陛下の暇つぶし相手』ですわ」


「生贄……、だと?」


「ええ。……私の秘書を名乗る覚悟があるのなら、まずはセレーネの $1/100$ の速度で、第666世界の『地獄の確定申告書』一億人分を、手書きで整理なさることね。……一枚でもミスをすれば、陛下が貴方の存在そのものを『消しゴム』で消してくださいますわ」


 カエルスが、氷のような笑みを浮かべて剣を収める。

「……なるほど。……いいだろう。……この男がいつ『計算ミス』をして消滅するか、特等席で見守ることにしよう」


 ルシフェルは冷や汗を流しながらも、不敵な笑みを崩さなかった。

「……光栄です。……必ずや、貴女様の『唯一の知恵』になってみせましょう」


 エリザベートの背後で、セレーネが静かに、しかし冷酷にデータの同期を開始する。

「……インターン、ルシフェル。……業務開始です。……最初のタスク:全銀河の『埃』のカウントと分類。……期限は、今から五秒後です」


「……本気ですか、貴女!?」


 艦橋に、ルシフェルの悲鳴と、カエルスの満足げな鼻歌が響く。

 だが、エリザベートの視線は、ルシフェルが持ち込んだモニターの隅、ギルドの暗号通信に固定されていた。


『――計画は第2段階へ。監査官を内部から攪乱せよ』


「……ふふ。……どんな脚本プロットを隠し持っているのか、じっくりと『棚卸し』して差し上げますわ」


 女帝の知略と、転生者ギルドの刺客。

 帝国の「秘書」という名の王座を懸けた、知的で残酷な内部抗争が幕を開けた。

「秘書」という名の聖域に土足で踏み込んだルシフェルですが、

エリザベート様にとっては、ただの「面白い監査対象」に過ぎませんわね。

セレーネさんの静かな怒りと、カエルス様のあからさまな殺意に挟まれるインターン生活……

私なら一分で「自己都合退職(消滅)」を選びますわ。


転生者ギルドの卑劣な内部攪乱を、女帝がいかにして「逆買収」するのか……。

新キャラ登場で加速する帝国のガバナンスに痺れていただけましたら、

ぜひ【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】で、ルシフェル君の「地獄の残業」を応援してあげてくださいな。


次回、第46話『セレーネの休日:無敗の秘書が「愛」を監査した結果』。

完璧な秘書・セレーネが、ついに「プライベート」を初公開!

エリザベート様への深すぎる忠誠心の理由が、明らかになりますわよ。

お楽しみに。

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