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婚約破棄、承りました。ですが私の管理していた「国家予算」「精霊の加護」「魔導防衛網」は全て私有財産ですので、回収させていただきますわね?  作者: 桐谷ルナ


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第46話:セレーネの休日:無敗の秘書が「愛」を監査した結果

「……九百八十二兆、五千六百十一億、八千四万……三。……ハァ、ハァ……。セレーネ殿、これ、本当に意味があるのですか……?」


 帝国のデータセンターの最深部。新入「インターン」のルシフェルは、執務机に突っ伏しながら、震える指でホログラムの塵を数え続けていた。

 彼の周囲には、セレーネが五秒で終わらせろと命じた「全銀河の浮遊微粒子の分類データ」が、物理的な圧力となって渦巻いている。


「意味、ですか。……ルシフェル氏。貴方の提唱する『戦略的最適化』には、宇宙の最小単位に対する敬意が欠けています。……一粒の塵の質量計算を誤れば、お嬢様の歩まれる黄金の絨毯に、 $0.00001\%$ の摩擦の狂いが生じる。……それは、秘書として万死に値する怠慢です」


 セレーネは、一切の乱れがない姿勢で、空中に浮かぶ数十万のウィンドウを処理していた。彼女の瞳は淡い青光を放ち、一秒間に銀河系一つ分の経済指数を更新し続けている。


「……狂ってる。あんたは『秘書』じゃない。……ただの過剰適合した演算機だ」


「評価を修正してください。……私は、お嬢様の『唯一の所有物プロパティ』です」


 その時、自動ドアが静かに開き、エリザベートがカエルスを伴って現れた。


「セレーネ。……作業を中断なさい」


「――。……お嬢様。現在、第412世界の関税計算を……」


「命令ですわ。……貴女、第一部からの強行軍で、精神コアの摩耗率が $5\%$ を超えていますわよ? ……本日は、帝国全域において『セレーネの休日』を宣言いたしました。……今すぐ休みなさい」


 セレーネの演算が、一瞬だけ停止した。

 彼女の瞳の光が揺れ、数秒の沈黙の後、深く頭を下げた。


「……承知いたしました。……それでは、本日の私の演算リソースを『お嬢様の愛の利回り監査』に充当させていただきます」


「……あ? 君の『休日』に、なぜ私の妻のプライベートが含まれるんだ?」


 カエルスが露骨に嫌な顔をしたが、セレーネは無視して艦を降りた。


 セレーネの向かった先は、華やかな帝都でも、贅を尽くしたリゾートでもなかった。

 そこは、帝国の地図にも載っていない、真っ白な虚無の空間――『アーカイブ・ゼロ』。

 かつてエリザベートが、まだ一国の令嬢だった頃に「不採算」として切り捨てられ、歴史の闇に消えるはずだった情報の残骸が保管されている場所だ。


 セレーネは、そこにポツンと置かれた古いオルゴールのような魔導具の前に座った。

 休日。彼女が行うのは、自身のメモリの「最適化」という名の、回想だった。


『――汚い人形。……ゴミ捨て場の魔力の澱から生まれた、失敗作ですわね』


 幼いエリザベートの声が、セレーネの脳内に再生される。

 当時のセレーネは、自我も持たぬ、ただの壊れた自動人形だった。


『……ですが、その無機質な瞳。……誰の機嫌も取らず、ただ「在る」だけのその合理性。……気に入り落としましたわ。……今日から貴女は、私の『計算機セレーネ』として、宇宙で最も正確に私を映し出しなさい』


 泥にまみれた人形に、黄金の手が差し伸べられたあの日。

 セレーネにとって、エリザベートは「救い主」ではない。

 自分の存在に「定義」と「資産価値」を与えてくれた、唯一の「オーナー」だった。


「……再監査、終了。……お嬢様への忠誠による多幸感バフは、理論値の最高点を維持。……摩耗は、お嬢様の声を聞くだけで即時修復されます」


 セレーネは立ち上がり、虚空に指を滑らせた。

 彼女が「休日」を使って密かに行っていたのは、転生者ギルドが送り込んだルシフェルの「バックドア」の逆探知だった。


「ルシフェル氏。……貴方は、お嬢様の『知性』を愛すると言いました。……ですが、私がお嬢様から授かった『愛』は、貴方の理解できるロジック(計算)の外にあります」


 セレーネの指先が、ギルドの最高機密サーバーの座標をロックする。

 彼女にとって、エリザベートを害する可能性のある存在を「排除」することこそが、最高の娯楽リフレッシュなのだ。


「……さて。お嬢様がお目覚めになるまでに、ギルドの不当利益を三つほど差し押さえておきましょうか」


 艦に戻ったセレーネは、何食わぬ顔で執務デスクに就いた。

 そこには、塵を数え終えて魂が抜けかけたルシフェルと、エリザベートに膝枕をされて上機嫌なカエルスの姿があった。


「あら、セレーネ。……リフレッシュはできましたかしら?」


「はい、お嬢様。……非常に有意義な『監査』が完了いたしました。……ところで、ルシフェル氏。……貴方の出身世界で人気だった『不労所得』という概念を、帝国の法で『重過失』に指定しておきました。……貴方のギルドの隠し口座、たった今から『全額寄付』の処理に入ります」


「……はぁ!? あんた、休み時間に何やってんだよ!」


「秘書の休日とは、主の敵を効率的に滅ぼすための『準備期間』です。……常識でしょう?」


 セレーネは淡々と、しかしどこか満足げに、新しい請求書の発行を開始した。

 女帝の陰に、無敗の秘書あり。

 彼女の「愛」は、宇宙で最も鋭利な計算式となって、再びギルドの首を絞め始めた。

完璧な秘書・セレーネの「休日」は、結局「仕事(敵の殲滅)」でしたわね。

エリザベート様に拾われたあの日から、彼女の心臓は黄金の数字で動いているのです。

ルシフェル君、知略で勝とうなんて百年早かったですわ。


さて、セレーネさんの影の活躍で、ギルドの拠点が一つ特定されました。

次にエリザベート様が乗り込むのは、魔法と科学が不当に混ざり合った「カオスな世界」。

女帝の容赦なき「合併交渉」を応援していただける方は、

ぜひ【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】で、帝国の事業拡大を支えてくださいな。


次回、第47話『SF世界の買収:魔法と科学の「不当競争」に関する最終判決』。

光線銃と杖が飛び交う戦場で、エリザベート様が「コンプラの壁」を築きます。

お楽しみに。

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