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婚約破棄、承りました。ですが私の管理していた「国家予算」「精霊の加護」「魔導防衛網」は全て私有財産ですので、回収させていただきますわね?  作者: 桐谷ルナ


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第44話:内政無双の監査:衛生管理の不備で、その王国を営業停止にします

「――さて。卵の殻剥きに勤しむ彼が言っていた『転生者ギルド』とやら、まずはその『出先機関』から叩き潰すとしましょうか」


 地獄の再開発現場をセレーネに任せ、エリザベートはカエルスと共に、第81並行世界――通称「清潔なるヴァレリア王国」へと降り立った。

 そこは、一人の転生者が持ち込んだ「石鹸」と「公衆衛生」の知識により、中世レベルの文明から急速な発展を遂げたと言われる、内政無双の成功例とされる世界である。


 街は石畳で舗装され、行き交う人々は皆、清潔な服に身を包んでいた。

「見てよ、この石鹸! 賢者様が教えてくれたおかげで、病気もなくなったんだ!」

「賢者様、万歳! ヴァレリア王国、万歳!」


 広場では、民衆が「賢者」と崇められる転生者――カイトを囲んで歓声を上げていた。カイトは現代的な白いシャツを腕まくりし、爽やかな笑顔で民衆に応えている。


「みんな、手洗いは基本だよ。この特製石鹸さえあれば、もう疫病なんて怖くない。さあ、今日も増産だ!」


「――あら。随分と、杜撰な『バイオハザード』を垂れ流していらっしゃいますのね」


 歓喜に沸く広場を、冷ややかな声が切り裂いた。

 黄金の光を背負い、日傘を差したエリザベートが、カエルスを伴って雑踏を割る。その圧倒的なオーラに、民衆は言葉を失い、カイトだけが顔を強張らせた。


「なんだ、あんたたちは? この国に商売の売り込みなら、ギルドを通してくれないか。今、忙しいんだ」


「商売? ……いいえ。私は『多次元公共安全委員会』の筆頭監査官、エリザベートですわ。……カイトさん。貴方の経営する『ヴァレリア石鹸工場』、およびこの王国の衛生管理体制に対し、緊急立ち入り検査を実施いたします」


「監査……? はは、笑わせるな。この国がどれだけ綺麗になったか見てないのか? 俺の知識が世界を救ったんだよ」


「『綺麗になった』……? ふふ、表面ビジュアルだけ取り繕って、本質的なリスクを無視する。典型的な『無能な開発者』の言い草ですわね」


 エリザベートが指を鳴らすと、カイトの背後にある巨大な石鹸工場の壁面が、透視されるように黄金の魔導グリッドで覆われた。


「セレーネ、事前調査の結果を公表なさい」


 影から現れたセレーネが、無機質な声で告発文を読み上げる。

「報告。……当該工場より排出される廃液を確認。石鹸製造の副産物である『強アルカリ性廃液』が、中和処理を経ずにそのまま近隣の川へ放流されています。これにより、下流域の魔導生態系に致命的な欠損エラーが発生中」


「な……!? 廃液くらい、川に流せば薄まるだろ!」


「薄まる? ……あら、貴方の世界の物理法則をこの宇宙に持ち込まないでいただけます? ……カエルス陛下、あちらをご覧くださいな」


 カエルスが静かに剣を抜き、空を斬った。

 空間が「断面」を見せ、そこには廃液によって変異し、真っ黒に腐り果てた水霊(精霊)たちの無残な姿が映し出されていた。


「――この世界の精霊たちは、貴方の『安い知恵』のせいで、呼吸すらできずに悶え苦しんでいる。……これこそが、貴方の築いた『清潔な国』の裏側だ」


「そ、そんな……精霊なんて、目に見えないだろ! 知るかよ!」


「『見えないから無罪』。……その思考回路こそが、コンプライアンスの欠如、ひいては経営者失格の証左ですわ」


 エリザベートはカイトの鼻先に、巨大な赤い「業務停止命令書」を突きつけた。


「貴方の無知な知識提供により、この世界の精霊バランスは崩壊寸前。……さらに、貴方が『特製石鹸』に配合した香料、これにはこの世界の住人の魔力循環を阻害する『中毒物質』が含まれていますわね? ……一時的な爽快感と引き換えに、民衆を貴方の製品なしでは生きられない『薬物依存状態』に追い込んでいる。……これは明白な『薬機法違反』、および『人道に対する罪』ですわ」


「う、嘘だ! 俺は、みんなを幸せにしようと……!」


「幸せ? ……いいえ。貴方はただ、自分の知識で『王様ごっこ』がしたかっただけですわ。……カイトさん、貴方の『転生者ギルド』への報告書、拝見しましたわよ。……『低知能な原住民を、衛生という餌で手懐けることに成功』。……これ、投資家(私)から見れば、一発で除名デリートの悪質案件ですわ」


 エリザベートが指を鳴らすと、カイトの足元に転がっていた金貨や、彼が受けていた「賢者」の称号が、砂のように崩れ落ちていった。


「本日をもって、ヴァレリア王国の全商業活動を停止。……カイト、貴方の持つ『転生特権』は、環境破壊の賠償金として全て差し押さえますわ。……これからは地獄の『廃液処理班』として、素手でその毒水を浄化し続けるのが、貴方の新しいお仕事です」


「嫌だ……! ギルド! 助けてくれ、ギルドォ!」


 絶叫するカイトを、次元の裂け目が飲み込んでいく。

 一瞬にして「賢者」を失った王国に、エリザベートは冷酷な、しかし正当な宣告を続けた。


「さて、ヴァレリア王国の民衆の皆様。……『知識』を鵜呑みにしたツケは、これから皆様で支払っていただきますわ。……セレーネ、この国に正しい『魔導環境学』の教科書を、超高額なライセンス料と共に販売しなさいな」


 一国を救ったはずの英雄が、ただの「公害加害者」として断罪される。

 その光景を次元の彼方から見つめる、複数の鋭い視線があった。


「……第81世界のカイトが消されたか。……あの女、噂の『監査官』だな」


「ギルドの資産を脅かす者は、物語の修正対象だ。……『執行官』を送り込め」


 エリザベートの覇道に、ついに「転生者ギルド」の本隊が動き出そうとしていた。

「内政無双」の裏側に潜む「環境破壊」を暴き、

無責任な英雄を「公害犯」として地獄へ送る……。

これぞ、エリザベート様による、甘い言葉に騙されない「徹底監査ざまぁ」ですわ!


「石鹸一つで世界が変わる」なんて甘いプロット、

エリザベート様の「コンプライアンス」の前ではただの規約違反に過ぎません。

彼女の容赦なき「社会の窓」全開な監査を応援していただける方は、

ぜひ【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】をポチッとお願いいたしますわ。


次回、第45話『カエルスの溜息:君の「秘書」を名乗る不届き者が現れたが?』。

有能すぎるエリザベート様に、ギルドから「最強のライバル秘書」が送り込まれます。

カエルス様、またしても嫉妬の嵐ですわよ。

お楽しみに。

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