第42話:閻魔の泣き言:拷問によるエネルギー生産は「非効率」ですわ
「いらっしゃいませ……ませ……ませ……」
三つの頭を深く下げたケルベロスの「唱和」を背に、エリザベートは地獄の本道――『十王庁』へと足を踏み入れた。
周囲には、生前の罪を数え上げられ、針の山や釜茹での刑に怯える亡者たちが溢れている。だが、エリザベートが歩くたびに、その黄金の魔圧が血の池を蒸発させ、針の山を平坦な舗装道路へと変えていった。
「――酷い。あまりにも酷いですわね、セレーネ」
エリザベートは扇で鼻を覆い、目の前で繰り広げられる「古典的な拷問」を冷ややかに見つめた。
「は。……エネルギー抽出効率、わずか $0.3\%$。……亡者の恐怖心を魔力に変える手法としては、数千年前の旧式スクラップ同然ですわ、お嬢様」
「何奴だ! 神聖なる裁きの場を汚す不届き者は!」
咆哮と共に現れたのは、巨大な机に座り、恐ろしい形相で死者を睨みつける地獄の主――閻魔大王であった。
彼は手にした『浄玻璃の鏡』を掲げ、エリザベートの罪を暴こうと身を乗り出す。
「貴様の悪行をこの鏡に映し出し、無間地獄へと――」
「――その鏡、解像度が低すぎてお話になりませんわ」
エリザベートが指を鳴らした。
その瞬間、閻魔の持つ宝鏡が黄金の輝きに包まれ、中から無数の「経営指標」と「損益計算書」がホログラムとなって溢れ出した。
「な……なんだこれは!? 文字が……数字が勝手に踊りおる!」
「閻魔さん。貴方が『正義』だ『罰』だと言い張っているこの業務。……監査の結果、明白な『不当労働』、および『エネルギー資源の無駄遣い』と判定されましたわ」
エリザベートは優雅に演壇へと歩み寄り、閻魔が座る巨大な椅子の肘掛けに手をかけた。
「亡者を釜で茹でて何が得られます? ……一瞬の悲鳴と、僅かな負の魔力だけ。……それを作るための燃料(薪)のコストを計算したことがおあり? ……完全なる赤字(損失)ですわよ」
「バ……バカな! これは因果応報の理! 苦しみを与えることこそが地獄の存在意義だ!」
「その『存在意義』が、宇宙の経済を停滞させていると言っているのです。……セレーネ、改善案を提示なさい」
「は。……本日より、全拷問器具を撤去。亡者には帝国の『仮想現実(VR)型・労働者教育プログラム』を受講させます。……彼らの後悔と更生への意志を、クリーンな『浄化エネルギー』として高密度圧縮。生産性は現在の $12000\%$ まで向上いたします」
エリザベートは、唖然とする閻魔の喉元に、帝国の「雇用契約書」を突きつけた。
「いいですか。地獄を『ゴミ捨て場』にしておく時代は終わりましたわ。……本日から、ここを『魂の再資源化センター』、および『地獄リゾート・スパ』へと統合いたします。……閻魔さん、貴方は……そうですわね。……その威厳だけは認めて差し上げますから、施設の『苦情処理・セキュリティ担当』として、時給で働かせて差し上げますわ」
「時給……!? 私が……この地獄の王である私がか!?」
「嫌なら、今すぐこの施設にかかっている『次元維持費』を全額一括返還なさることね。……利息を含めると、貴方のヒゲ一本に至るまで差し押さえても足りませんが?」
カエルスが背後で、漆黒の剣の鯉口をカチリと鳴らす。
地獄の主は、エリザベートの冷徹な正論と、皇帝の圧倒的な暴力という「二つの現実」を前に、ガタガタと震えながら膝を突いた。
「わ……分かった……。是正勧告に従おう……。もう、茹でるのは辞める……」
「ええ、よろしい。……では早速、その釜を『高濃度炭酸シルク風呂』に、針の山は『足裏マッサージ・ゾーン』に改装しましょうか。……死ぬのが楽しみになるような、最高のサービスを提供いたしましょう」
地獄の支配構造が、わずか数分で「帝国の下請け」へと書き換えられた。
だが、その騒乱の中。セレーネの瞳が、次元の彼方から迫る「異質なノイズ」を捉えた。
「――お嬢様。……地獄のガバナンス変更を嗅ぎつけ、システムに不正アクセスを試みている者がおりますわ。……『現代知識』を自称する、傲慢な転生者の一団です」
「あら。……私の私有地(地獄)で、無許可の『チート』かしら?」
エリザベートの唇が、捕食者の如く妖しく吊り上がった。
地獄の王・閻魔を「クレーム処理係」へ降格させ、
「死=拷問」という概念を「エネルギー生産」へと合理化する。
これぞ、エリザベート様による、全宇宙で最も厳しい「働き方改革」ですわ!
地獄の経営統合に成功したエリザベート様ですが、
そこに現れたのは、現代知識を振りかざして無双を企む「転生者」たち。
「知識チート」という名の脱税を、女帝がいかにして粉砕するのか……。
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彼女の「コンプライアンス監査」を応援してくださいな。
次回、第43話『転生チートへの課税:その「現代知識」、関税は払いました?』。
特許侵害と無許可開発の罪で、転生者たちに地獄の沙汰(納税)を下しますわよ。
お楽しみに。




