第41話:第二部開幕:地獄の門番、女帝の「受付嬢」として再雇用される
「――陛下。甘い時間はこれくらいにいたしましょう。……宇宙の帳簿に、一箇所だけ『真っ黒な赤字垂れ流し区域』を見つけましたわ」
建国記念日の喧騒が去った翌朝。ヴォイド・コアの最上階で、エリザベートはカエルスの腕の中から鮮やかに抜け出し、魔導タブレットを起動させた。
カエルスは名残惜しそうに空いた腕を眺め、ふっと短く息を吐く。
「……また仕事か。君の野心には、全宇宙の魔力を持ってしても足りないようだな」
「あら。野心ではなく『義務』ですわ。……見てくださいな、この第666並行世界。……通称『地獄』。……ここ、過去一万年にわたって一銭の納税も、一ミリの成長報告もございませんのよ? 管理責任を問うのが当然ですわ」
エリザベートが指を弾くと、空間に漆黒の亀裂が走った。
彼女はためらうことなく、黄金のヒールでその「奈落」へと踏み込んだ。
辿り着いたのは、血の川が流れ、空が常に赤黒く濁った絶望の地。
その入り口には、山よりも巨大な三つの頭を持つ魔犬――地獄の門番ケルベロスが、侵入者を噛み砕かんと咆哮を上げていた。
「グルアアアッ! 命知らずな人間め! ここは死者の国、生者が踏み入れば魂ごと――」
「――騒がしいですわね。……セレーネ、この大型犬(?)の『占有許可証』を確認してくださる?」
エリザベートの背後から、一切の恐怖を感じさせない無機質な足取りでセレーネが歩み寄る。
「は。……該当する許可証は存在しません。……それどころか、この門番、および地獄の運営組織は、数千年前の神代に発行された『古い借用書』を盾に、この土地を不法占拠し続けております」
「不法占拠に脱税……。あまりに救いようのない低俗な経営体質ですわね」
エリザベートは、自分を威嚇するケルベロスの鼻先に、一枚の黄金の「差押予告通知」を叩きつけた。
「いいですか、ワンちゃん。……貴方が守っているこの『門』。……たった今、私が買い取りましたわ。……これからは帝国の『第13リゾート施設・地獄店』の入り口として再開発いたします」
「な……何を言っている!? 我は神より授かりし不滅の門番! 貴様のような女の言葉など――」
「――不滅? ……ふふ、経済的に死んでいることに気付かないなんて、おめでたい頭ですわね」
エリザベートが数式を展開すると、ケルベロスの巨体を縛る「因果の鎖」が、黄金の請求書へと書き換えられていく。
$$ \text{Debt} = \text{Unpaid Taxes} \times (1 + r)^{1000} + \text{Environment Damages} $$
「貴方がここで吠え続けることで発生した騒音、および環境汚染。……そして何より、死者の魂を『拷問』という非効率な手段で摩耗させてきたことによる機会損失。……それらを合算した損害賠償額は、貴方の魂を万回砕いても足りませんわよ?」
「が……っ!? 力が……力が抜けていく……!?」
「当たり前ですわ。……貴方の存在維持に必要な魔力供給、帝国の『一括支払い拒否』に設定いたしましたから。……消え去りたいのでなければ、私の条件を飲みなさい」
エリザベートは、絶望に震えるケルベロスを見下ろし、優雅に微笑んだ。
「貴方のその三つの頭。……それぞれ『予約確認』『お荷物預かり』『周辺観光案内』の担当になさい。……名前も今日から『ケルちゃん』ですわ。……愛想よく振る舞えば、魔力(給与)の出来高払いを検討して差し上げますわよ?」
「我……我は……地獄の……」
「……『いらっしゃいませ』は?」
カエルスが背後から漆黒の剣をわずかに抜き、冷たい眼光を浴びせる。
ケルベロスは……いいえ、ケルちゃんは、三つの頭を揃えて地面に伏せ、震えながら声を絞り出した。
「い……いらっしゃい……ませ……ませ……ませ……」
「ええ、よろしい。……セレーネ、門の装飾を自動ドアに、血の池は『高濃度炭酸泉』に改装なさい。……さて、奥にいる『魔王』さんたちにも、私の新しい雇用契約書を届けて差し上げなくては」
地獄の入り口が、黄金のペン一本で「帝国の受付」へと作り替えられた瞬間。
死後の世界すら逃げ場にできない、女帝の第二章が華々しく開幕した。
死後の世界すら「不採算部門」として買収し、
伝説の門番を「受付嬢(犬)」にリサイクルする……。
これぞ、エリザベート様による、全次元を恐怖させる「ホワイト経営」の始まりですわ!
「第二部:概念侵食編」、初手から絶好調ですわね。
エリザベート様の地獄再開発にワクワクしていただけましたら、
ぜひ【ブックマーク】と【評価☆☆☆☆☆】で、彼女の「新事業」への出資をお願いいたします。
次回、第42話『閻魔の泣き言:拷問によるエネルギー生産は「非効率」ですわ』。
地獄のブラック上司・閻魔大王に、エリザベート様が「正しい働き方」を説きますわよ。
お楽しみに。




