第40話:多次元帝国の建国記念日:世界で最も「幸せな独裁」の始まり
宇宙の全次元が黄金の輝きに満たされる日――『多次元帝国アルカディア』の建国記念日。
統治中枢『ヴォイド・コア』は、いまや数千の銀河が花々のように咲き乱れる、壮麗な空中庭園へと変貌していた。
次元を跨ぐ巨大なパレードの先頭を行くのは、第7世界の勇者アリス率いる『帝国監査騎士団』。彼らが掲げる旗には、剣ではなく「黄金の天秤」が描かれている。
その後ろには、かつて救い出された数百人の「エリザベート」たちが、各次元の代表として優雅に馬車を連ねていた。
「――見てくださいな、陛下。……空を彩るあの打ち上げ花火。……あれ、先日リサイクルした『元王子ジュリアン』と『元神官テオス』たちの魔力残滓ですわ。……最後まで、実に見事な燃えっぷり(還元効率)ですこと」
バルコニーに立つエリザベートが、隣のカエルス皇帝に微笑みかける。
夜空を焦がす鮮やかな光は、かつて彼女を虐げた者たちの「存在そのもの」を消費して生み出された、最も贅沢な供養であった。
「ああ。……無能なゴミでも、君の手に掛かればこれほどの輝きを放つ。……宇宙は、ようやく正しい持ち主を手に入れたということだな」
エリザベートは、全次元に中継されている魔導カメラに向かって、静かに扇を広げた。
彼女の声は、帝国の「新・物理法則」を通じて、全住民の意識に直接響き渡る。
「――全次元の民よ。……本日をもって、宇宙の『不況(不幸)』は完全に終了いたしました。……これからの私の統治下において、不幸になることは『規約違反』であり、絶望することは『重大な過失』とみなされますわ」
女帝の瞳が、紫水晶のような神秘的な輝きを放つ。
「私は貴方たちに、完璧な安全と、正当な努力が報われる公平な市場を約束いたします。……その代わり、貴方たちの『意思』と『未来』は、すべて私が投資させていただきますわ。……幸せを享受し、私に莫大な利息(魔力)を返し続けなさい。……不服申し立ては、一切受け付けませんわよ?」
『総幸福 = 全宇宙にわたる(意思 × 自由)の積分 → 無限大』
エリザベートが数式を虚空に刻むと、全次元の空に「幸福の雨」が降り注いだ。
病は癒え、飢えは消え、理不尽な脚本は灰となり、全宇宙が女帝の鼓動と同調する。
「……さて。……公式行事はこれくらいにしましょうか。……セレーネ。……パレードの後の祝杯は、陛下の私室に運びなさい。……今夜は、仕事の監査ではなく……この宇宙で唯一、私の計算が狂う『陛下の愛』をじっくりと堪能したい気分ですわ」
「御意、お嬢様。……既に、全次元の時間を一時的に『陛下専用の保存期間』としてロックしております」
黄金の女帝は、漆黒の皇帝の腕をとり、歓喜に沸く宇宙を背に、二人だけの聖域へと歩を進めた。
それは、終わりのない繁栄と、至高の独裁が始まる、神話の第一章の終わりであった。
「第一部・多次元帝国建国編」、これにて完結ですわ。
断罪された令嬢が、宇宙の帳簿をひとりで締められるところまで参りました。
かつての敵は打ち上げ花火になり、住民には幸せが課税されております。……悪くない決算でしょう?
ここまでお付き合いくださって、ありがとうございました。【ブックマーク】と【☆☆☆☆☆】は、次の事業への出資として頂戴いたします。
次は、まだ帝国の版図に入っていない場所へ。死後の世界の門番が、履歴書を持って待っておりますわ。




