表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
赤字ラーメン店長、異世界で『棚卸の儀』を極めて魔王と元上司を屠り、元の店に凱旋する  作者: もしものべりすと


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

8/21

第八章 国家棚卸、号令

一人で店一軒を数えるのに、俺は一年かかった。


 では、国一つは何年だ。


 答えは、二月、だった。


 正確に言えば、二月でやり切るための工程表を、俺は十日間で書き上げた。


 まず、王国を七つの行政区に分けた。


 各区に、商人会の支部、ギルド支部、教会の貯蔵庫が必ず一つ以上ある。


 それぞれに「数える人」と「読み上げる人」を二人組で配置することにした。


 二人組にしたのは、一人だと数を間違えるからだ。


 間違えても、もう一人が必ず止める。それで誤差は、半分以下になる。


 商人会会長コルネリウスを、流通部門の総責任者に推薦した。


 冒険者ギルドのミラを、伝令網の総括に推薦した。


 ミラは、王都中央のギルド本部に常駐し、各区からの伝令を一手に受けることになった。


 彼女には、俺の色分けの方法を教えた。緑、青、赤、黄。彼女は二日でそれを覚えた。


「タドコロさん、これ、すごく分かりやすい」


「八年使ってきたので」


「……八年」


「だいたい、それくらい」


「それを、教えてくれて、ありがとう」


「いえ」


「あなたの八年を、こうして使わせてもらえるのが、嬉しいです」


 ミラはそう言って、笑った。


 俺は、ノートに書く言葉が見つからなかった。


 代わりに、彼女が淹れてくれたお茶のお代わりを、もう一杯もらった。


 工程表を王女に提出すると、彼女は一言だけ呟いた。


「これは、戦のための備えではない」


「はい」


「これは、国を、もう一度、自分の手で握り直すための仕事だ」


「はい」


「私の代で、それができるとは思っていなかった」


 王女の声は、低かった。


 彼女は工程表を持って、すぐに国王陛下のもとへ向かった。


 翌日、国王陛下の名で、全国棚卸の勅令が発布された。


 その日のうちに、辺境伯シュトロームが王宮に登城した。


 彼は身長二メートル近くある巨漢で、髭が顎の下まで伸びていた。


 北方を守る武人として、王国でも名の知られた人物だった。


 彼は王女の謁見の間で、俺の前に立つと、深く頭を下げた。


 いや、頭ではなかった。


 彼は、片膝をついた。


「シュトロームだ」


「タドコロ・ケンタです」


「噂は聞いた。あんたが指揮するなら、北方の備蓄も、すべてあんたの数字に従う」


「片膝、上げてください」


「上げない」


「なぜ」


「俺は、数えてもらえる側だ。数えてくれる側に、礼を尽くすのは当然だ」


 辺境伯の声は、低くて重かった。


 俺は何と答えていいか分からなかった。


 代わりに、ノートに書いた。


 〈シュトローム卿、片膝つき。北方備蓄、開示同意〉


 彼が顔を上げると、王女が静かに頷いた。


「シュトローム」


「はっ」


「お前ほどの男が、片膝をつく相手だ。私も覚えておこう」


「殿下、こいつはただの皿洗いではありません」


「私もそう思っている」


「ようやく、王国の在庫が、誰のものか分かる気がします」


 謁見の間に、しばしの沈黙があった。


 俺はその沈黙の中で、ノートをそっと閉じた。


 ノートの背を、左の手のひらで包み込むようにして握った。


 その夜、王宮の自室に戻ると、机の上に、もう一枚、黒い封筒が置かれていた。


 封蝋の紋章は、王女のところで見たものと、同じ。


 俺は封を切らずに、ノートの八冊目の最後の頁に、挟み込んだ。


 見ない、ではなく、見るのを後回しにする、と決めた。


 仕込みが終わるまでは、味見はしない。


 それが、八年やってきた、俺の唯一の流儀だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ