第1話
始業式の日から、大雨だった。
土の道は雨水に浸かり、もはや流体と化していた。自転車の車輪も、履き替えたばかりの靴も、その上に一秒でも留まれば土の中へ沈み込む。走り出してこの沼地から逃げ出したくても、そうすれば泥水が全身に跳ね返るだけだった。
「くそ……」
遠海嶼言はそう低く呟き、自転車を押しながら、吹きつける風に耐えて一歩ずつ進んだ。
雨合羽を持ってきていたのが幸いだった。これでずぶ濡れにならずに済む。
……
「ふう、髪が濡れなくてよかった」
嶼言は合羽の水滴を払い落とすと、自分のロッカーに押し込んだ。河野高校の生徒は上履きに履き替える必要がない。延波島では、雨は常連番組だからだ。雨の夜に庭の門の前に立って、葉を打つ雨音に耳を澄ませ、大きく息を吸い込む——きっと気持ちいいに違いない。だが、翌日学校に来てみれば、そうは思えなくなる。校舎はすべて平屋で、大雨の後は床が水浸しになり、まるでプールだ……どうせ二、三日おきに掃除するのだから、履き替える意味もない。
幸い、今日は雨が長く続かなかった。
……
前方から喧騒が聞こえてくる。何人かが廊下の壁の前に集まり、貼り出された白い紙を見ながら何かを話している。
「お、クラス分けか」
高二は全部で三クラスしかない。クラス分けの意味がどこにあるのか。全部で百人にも満たず、互いにほとんど顔見知りだ。嶼言は首を振り、近づいて自分の名前を確認すると、教室へと向かった。
……
「奇遇だな、また同じクラスじゃん、MSTRING君!」
教室に足を踏み入れたばかりのところだった。水溜まりを踮脚で避け、窓際の席に座ったところで、背中を叩かれ、同時に朗らかな笑い声が聞こえた。
「おい!もう一度そう呼んでみろよ?」
振り上げた拳は後ろの席の男子——藤河古斗へと向かう。彼の父親は本土と延波島の間をずっと往復していて、日用品をいくつか運んできている。ただ、嶼言はそれが具体的にどう運ばれてくるのかはよく知らない。古斗の鞄の中にはいつも、島では見かけない新鮮なものが入っている、ということだけ知っていた。
「遠海神社の長男が、そんな乱暴にしちゃいけないぜ!」
「調子に乗るなよ!」
こうした冗談交じりの言い合いは嶼言にとっては日常で、古斗を本気で責めることはなかった。ちなみに「MSTRING」というのは本土の男性歌手で、去年からテレビ番組で活躍し、島の女子たちの数少ない共通話題になっている。だが……遠海神社の長男がその歌手に似ている、というのはどういうことなのか。嶼言は前からずっと不思議に思っていた。
「おかしいな、彼の写真見たことないのか?確かに似てるぞ。」
古斗の問いに、嶼言は首を横に振った。
「ほらほら、ちょうどいいから見せてやるよ!」
古斗は鞄から長方形の物体を取り出した。薄くて、手のひらと同じくらいの大きさだ。それを嶼言の目の前にかざし、側面の突起を押すと、表面が光り出し、色とりどりの画面が浮かび上がった。嶼言は身を乗り出し、古斗の手の中のものをまじまじと見つめた。
「な、これだよ!」
嶼言の目の前に一枚の写真が現れた。二十代の青年が、華やかな衣装をまとい、左手でマイクを握り、右手を琴の弦に添えている。マイクを握る指には指輪が一つ、灯りを受けて強く光っていた。
「おいおい!」
古斗が嶼言の目の前で手を振った。




