第163話 ネクサス大学 開校初日 六つのキャンパス その4 2022.11
第六章 死ぬ気で気合いを入れろ
【インド校区 空間転移・実戦防衛部門 講師:ガルド】
ガンジス川が見えた。
天空から見下ろすと、川は大地に刻まれた銀の筋のようだった。ラージはその景色を窓から眺めながら、深呼吸をした。
**空間転移・実戦防衛部門・第一講義室。**
教室に入ったとき、ラージはまず「椅子が全部端に寄せられている」ことに気づいた。教室の中央に、広い空間が作られている。床には魔法陣のような円が描かれていた。
嫌な予感がした。
扉が開いた。
入ってきた人物を見て、ラージは思わず固まった。
でかい。
身長だけではない。横幅も、存在感も、何もかもがでかかった。プロレスラーのような体格に、日焼けした褐色の肌。顔には古い傷跡がいくつかある。
学生たちが無言で息を呑む中、ガルドは教室を見渡した。
それから、豪快に笑った。
「ガハハハハ!」
それから共通語に切り替えた。
「いいか、お前ら!この部門は魔法陣を研究する。」
あそこに標的がある。この魔法陣に載って、あそこに向けて、手を差し出すと、
床の魔法陣の上で手を出した。
手のひらサイズの火の玉が出て、的に当たる。
バアン と大きな音がして、標的がゆれた。
「体で覚えることも、大事だ。というわけで、順番にやってみよう」
みんな面白がって、列になり始めた。
「失敗しいも、アバターだから、ケガはしないから」
ガルドは満面の笑みで言う。
「さあ、やってみろ」
最初の人が、手を差し出すと、小さな火が出た。すぐに消えた。
「うわっ、なんか出た!!」
誰かが「え、本当に?」とつぶやいた。
ラージは絶句した。
他の部門はどうか知らないが、少なくともここでは、概要説明などなかった。初日から実技。計算式を解く前に、攻撃魔法?—。
*超面白い*
正直に思った。でも腹の奥から、何か火のようなものが灯るのも感じた。
『ここにも、魔法陣を置こう。』といって、講堂内に魔法陣を増やしていく。
ガルドの声が飛んだ。
「人に当てるなよ。アバターが壊れると、修理が大変だから」
悲鳴が一つ。笑いが一つ。そして全員が火の玉を出し始めた。
ラージも、立った。
足が震えていた。でも、止まらなかった。
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【エピローグ その夜】
天空の夕暮れは、足元の雲が茜色に染まり始める。学生のアバター達が転移門に向かっている。
アキラは転移門に向かいながら、今日の様子を思い出した。
グネル講師は、まだ魔素シーケンサーの前にいた。測定値を見ながら、一人で何か頷いている。アキラは「先生、帰らなくていいんですか」と声をかけようとして、やめた。とても幸せそうな顔だと、なんとなくわかったから。
サラは、最後に一度だけアーロンの方を見た。アーロンはまだ壁際に立ち、腕を組んでいた。その目が一瞬だけサラと合った。何も言わなかった。でも、サラはなぜか「見られている」ことが嬉しかった。
エイミーは転移門をくぐる前に、窓から青い海を見た。ノートの「環境×魔法=?」という問いが、まだ頭の中にある。答えはまだわからない。でも、次の授業が楽しみだった。
ジンは帰りの転移門の中で、すでに論文を三本開いていた。「前例のないこと」——その言葉が、頭から離れなかった。
アーサーはまだ「空間とは何か」という問いを反芻していた。答えが見つかる気がしない。だから面白い。
ラージは全身を使い果たして転移門に辿り着いた。三回失敗し、四回目にようやく火が的の手前まで届いた、ガルドに「なかなかいいぞ」と言われた。ラージは今日一番の達成感を感じていた。
六つの転移門が、学生たちの意識をアバターから切り離す。本当の肉体に意識が戻る。
明日もまた、扉は開く。
――ネクサス大学、開校初日が終わった。




