第九話 これって宣伝?
「今度ね、化粧品屋さんから、商品提供の話きたのよ」
楽屋で、あたしはノエルに、そう自慢げに報告した。
「え、すごいじゃないですか! 企業案件ってやつですか」
「そう。ついに、あたしも、そういう規模の話が来る女になったってわけ」
「おめでとうございます!」
あたしは、早速もらった化粧水を使い、その日の夜、映え板に投稿した。
『最近のお気に入り、この化粧水。肌の調子が全然違うの♡』
コメントは、すぐについた。
『これ企業案件ですよね?』
『提供って書いてないのおかしくないですか』
『まるで隠れて宿題写してるのに、堂々と手上げてる感じ』
「な、何がおかしいんよ! これはあたしの正直な感想やねん!」
『正直な感想にしては、タイミング良すぎません』
『さっき別の投稿で「頂き物」って書いてたのバレてますよ』
「……あ」
あたしは、思わず自分の過去の投稿を見返した。たしかに、数時間前、別の投稿で「素敵な頂き物」と、うっかり書いてしまっていた。
*
翌日、この件が、劇団内でも話題になっていた。
「ヴィクトリアさん、ステマ疑惑で、ちょっとした騒ぎになってましたね」
ノエルが、心配そうにそう言った。
「まるで、犯行現場に指紋どころか、顔写真付きの名刺置いてきた泥棒やわ」
「例えてる場合じゃないですよ」
バロウも、呆れた顔で口を挟んできた。
「お前、隠す気あったのか、それ」
「隠す気はあったんです。ただ、宣伝したい気持ちが、隠す気を上回っただけで」
「それ、隠す気なかったって言ってるのと同じだからな」
*
その夜、あたしは、開き直って、正直に投稿することにした。
『みなさんの言う通り、企業案件でした。でも肌の調子がいいのは本当』
コメントは、意外にも、好意的なものが多かった。
『正直に言い直すの偉い』
『開き直り方に清々しさすらある』
『バレた瞬間の反応が一番面白かったです』
『化粧水より、その反応の方が商品として売れそう』
「誰が一番面白い人じゃ! あたしは真面目に商品紹介してんねん!」
『その化粧水、パッケージにヴィクトリアさんの今の顔写真使った方が売れますよ』
「誰の顔が商品になっとんねん!」
『いっそ商品名も「ヴィクトリア水」にしません?』
「勝手に改名すんな!」
『でも売れそう』
「それはその通りやろうけど!」
『企業に謝れwww』
あたしは、少し不服そうな顔をしながらも、フォロワー数が、いつもより多く増えていることに気づいた。
(まあ、結果的に注目されたなら、それはそれで良しとしとくか)
あたしは、そう自分を納得させることにした。




