第八話 西の血
「今日、久しぶりに一緒にお昼行かない?」
珍しく、アメリアの方から、そう誘ってきた。
「あら、あんたから誘うなんて、明日は槍でも降るのかしら」
「降らないわよ、別に」
あたしたちは、近くの食堂で、向かい合って座った。
「私、これにするわ。野菜多めのやつ」
アメリアは、メニューを見て、迷わずそう決めた。
「あたしは、この肉たっぷりのがっつり系にするわ」
「美容のこと、あんまり考えてないのね」
「食べたいものを食べて何が悪いの」
「まあ、それもヴィクトリアらしいけど」
*
料理を待つ間、アメリアが、ふと思い出したように言った。
「そういえば、ヴィクトリアって、出身どこなんだっけ」
「西の方よ。ちょっと田舎の」
「西かあ。なんか、納得するわね」
「何が」
「その、すぐボケたり、突っ込んだりするところ」
「あー、それはあるかもね。うちの地元、お笑いの本場みたいなとこあるから」
「本場なの?」
「本場よ。子供の頃から、会話の中でボケを入れない人間は、逆に薄情だと思われる土地柄なの」
「薄情って、大げさじゃない」
「大げさではないわ。挨拶の延長線上に、ボケが存在してるの」
アメリアは、少し呆れたように笑った。
「西の人って、会話にボケ入れないと気が済まないの?」
「気が済まないというか、入れないと死ぬわ」
「死ぬは大げさでしょ」
「大げさじゃないの。呼吸みたいなものだから」
*
料理が運ばれてくると、アメリアは、あたしの皿を見て、少し眉を上げた。
「本当に、こってりしたのにしたのね」
「言ったでしょ、食べたいものを食べるって」
運ばれてきた肉料理を前に、あたしは目を輝かせた。分厚い肉が、皿からはみ出さんばかりに盛られている。
「見なさいよ、この肉。まるで、女優の抑制なんて知らんとばかりに主張してくる感じ」
「主張しすぎでしょ、その肉」
「主張するくらいがちょうどいいの。控えめな肉なんて、肉じゃないわ」
「野菜にも失礼な理論ね、それ」
「あたしにとっては、野菜は前菜、肉こそが本編なの」
「そんなに肉ばっかり食べてるから、胸もそんなに主張してくるのね」
「誰が乳牛じゃ!」
アメリアが、思わずといった様子で笑い出した。
「何笑とんねん」
「その優先順位、女優としてどうなのよ」
「美容より、目の前の飯」
「女優である前に、人間だから」
「それ、なんかいい感じにまとめたつもりでしょ」
「バレた?」
あたしたちは、そのまま、特にオチもなく、食事を続けた。
こういう時、無理に締めのボケを入れないところも、アメリアと一緒にいる時の、数少ない気楽さだった。
「西の人は会話の中にボケを入れる」のくだりは、私の知り合いの関西人女性がそう言っていたので、おそらくそういう文化の地域が日本にもあるのでしょう。
偏見ではございません。




