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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第七話 普通の休日

 久しぶりの休演日、あたしは、たまには「普通の人」として、街を楽しんでみることにした。


 カフェに入り、控えめに、メニューを眺める。


「本日のおすすめは、こちらになります」


「そう。それでいただくわ」


 店員は、少し戸惑ったような顔をしたが、特に何も言わず、注文を通しに行った。


 あたしは、窓際の席で、静かに本を開いた。優雅な読書をしているように見せるための、演出の一環だ。


 早速、その様子を映え板に投稿する。


『これぞ女優の休日の過ごし方』


 コメントは、すぐについた。


『その本、さっきからずっと同じページですよね』

『読書してるというより、読書してるポーズしてません?』


「中身より、佇まいが大事な読書もあるんよ!」


『それもう読書じゃないですよね』



 その後、市場を覗いてみることにした。庶民的な雰囲気を楽しむのも、たまには悪くない。


「そこの果物、いくつか見繕ってちょうだい」


「……あの、自分で選んでもらえますか」


「あら、そう。じゃあ、この赤いのと、あちらの」


 あたしは、優雅に指をさしながら、選定を進めた。


 その様子も、しっかり撮影しておく。


『市場でお買い物。庶民の暮らしも、たまにはいいものね』


 コメントは、すぐについた。


『指差すだけで選んでもらってるの、庶民のお買い物じゃないですよね』

『それ庶民じゃなくて貴族の視察ですよ』


「視察て。あたしはただの客やねん!」


『でも自分で選んでないですよね』


「うるさいな! 選ぶ以外の楽しみ方もあるんよ、買い物には!」



 夕方、公園のベンチで、あたしは、一人、優雅に足を組んで座っていた。


 通りかかった子供たちが、少し離れた場所から、こちらをちらちら見ている。


 その様子も、こっそり一枚。


『公園でのんびり。子供たちにも人気者みたい♡』


 コメントは、すぐについた。


『それただ見られてるだけでは』

『子供、たぶん怖がってません?』

『人気者と不審者、紙一重ですからね』


「不審者て! 優雅に座ってるだけやろがい!」


『優雅の基準がバグってます』



 結局、その日一日、あたしは、どこに行っても、投稿するたびに、フォロワーから容赦のない指摘を受け続けることになった。


 夜、一日を振り返って、あたしはまとめの投稿をした。


『休日は、こうやって静かに過ごすのが好き』


 コメントは、すぐについた。


『今日一日、ずっと静かじゃなかった気がします』

『丸一日コメント欄で漫才してた説』

『もはや様式美』


「誰が様式美じゃ! これは伝説になる予定の日常やねん!」


 あたしは、思わずコメント欄にそう打ち込んでから、はっと我に返った。


 結局、静かに過ごせていなかったのは、投稿した後まで、変わらなかった。

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