第七話 普通の休日
久しぶりの休演日、あたしは、たまには「普通の人」として、街を楽しんでみることにした。
カフェに入り、控えめに、メニューを眺める。
「本日のおすすめは、こちらになります」
「そう。それでいただくわ」
店員は、少し戸惑ったような顔をしたが、特に何も言わず、注文を通しに行った。
あたしは、窓際の席で、静かに本を開いた。優雅な読書をしているように見せるための、演出の一環だ。
早速、その様子を映え板に投稿する。
『これぞ女優の休日の過ごし方』
コメントは、すぐについた。
『その本、さっきからずっと同じページですよね』
『読書してるというより、読書してるポーズしてません?』
「中身より、佇まいが大事な読書もあるんよ!」
『それもう読書じゃないですよね』
*
その後、市場を覗いてみることにした。庶民的な雰囲気を楽しむのも、たまには悪くない。
「そこの果物、いくつか見繕ってちょうだい」
「……あの、自分で選んでもらえますか」
「あら、そう。じゃあ、この赤いのと、あちらの」
あたしは、優雅に指をさしながら、選定を進めた。
その様子も、しっかり撮影しておく。
『市場でお買い物。庶民の暮らしも、たまにはいいものね』
コメントは、すぐについた。
『指差すだけで選んでもらってるの、庶民のお買い物じゃないですよね』
『それ庶民じゃなくて貴族の視察ですよ』
「視察て。あたしはただの客やねん!」
『でも自分で選んでないですよね』
「うるさいな! 選ぶ以外の楽しみ方もあるんよ、買い物には!」
*
夕方、公園のベンチで、あたしは、一人、優雅に足を組んで座っていた。
通りかかった子供たちが、少し離れた場所から、こちらをちらちら見ている。
その様子も、こっそり一枚。
『公園でのんびり。子供たちにも人気者みたい♡』
コメントは、すぐについた。
『それただ見られてるだけでは』
『子供、たぶん怖がってません?』
『人気者と不審者、紙一重ですからね』
「不審者て! 優雅に座ってるだけやろがい!」
『優雅の基準がバグってます』
*
結局、その日一日、あたしは、どこに行っても、投稿するたびに、フォロワーから容赦のない指摘を受け続けることになった。
夜、一日を振り返って、あたしはまとめの投稿をした。
『休日は、こうやって静かに過ごすのが好き』
コメントは、すぐについた。
『今日一日、ずっと静かじゃなかった気がします』
『丸一日コメント欄で漫才してた説』
『もはや様式美』
「誰が様式美じゃ! これは伝説になる予定の日常やねん!」
あたしは、思わずコメント欄にそう打ち込んでから、はっと我に返った。
結局、静かに過ごせていなかったのは、投稿した後まで、変わらなかった。




