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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第六話 街の反応

「今月のノルマ、まだ全然なので。皆さん、街頭で配ってきてください」


 バロウの号令で、あたしたちは、チラシを抱えて、興行街の大通りに立たされることになった。


「ヴィクトリアさん、映え板のフォロワーの人たちが見たら、びっくりしますね」


「まあね。あたし、こういう地道な活動もするタイプだから」


 あたしは、余裕たっぷりにそう答え、道行く人に、堂々とチラシを差し出した。


「銀月座の新作公演、よろしければ――」


「あ、大丈夫です」


 目も合わせず、素通りされる。


「銀月座の――」


「結構です」


 また、素通り。十人、二十人と続けたが、誰一人として振り返らない。


「まるで、無料サンプル配ってるのに、試食コーナーごと避けられてる気分やわ」


 隣で配っていたノエルが、感心したように頷いた。


「うまいこと言いますね、そういう時だけ」


「そういう時だけ言うな」



 三十人目、ようやく一人の女性が、チラシに目を止めてくれた。


「銀月座……ああ、あの、小さい劇団の」


「小さいって言うな! いずれ首都に殴り込みかける劇団や!」


「殴り込むんですか、これ」


「たとえよ、たとえ」


 女性は、そのまま何も言わず、チラシだけ受け取って去っていった。


「反応薄すぎるやろ! せめてリアクション芸くらい見せてくれや!」


「お客さんに求めすぎです」


 ノエルが、冷静にそう突っ込んだ。



 しばらくして、一人の中年男性が、あたしのチラシを、興味深そうに受け取ってくれた。


「銀月座って、あの、面白い劇団だっけ」


「あ、はい! ご存知ですか?」


「前に一回だけ観たよ。なんか、女優さんがセリフ噛んで、客席にキレてた回」


「……それ、あたしなんですけど」


「え、そうなの!」


「そうそう、この顔だ! あれ面白かったよ、また観に行くわ」


「あの、演技の方も評価してほしいんですけど」


「いやいや、あの瞬間の勢い、他にないから」


「まるで、花火大会の後にゴミ拾いだけ褒められてる気分やわ」


「例え、うまいね」


「褒められた気がしないんですけど、それ」



 昼過ぎ、休憩がてら、あたしはノエルと並んで、道端に座り込んでいた。


「今日、何枚配れました?」


「聞くな。まるで、砂漠でアイス売り歩いた結果だけ聞かれてる気分やわ」


「よく分からないですけど、配れてないってことですね」


「そういうことになる」


「映え板だと即バズるのに、リアルだと空気なの、なんでなんでしょうね」


「知らんがな。まるで、水槽の中では派手な熱帯魚なのに、水から出た瞬間、その辺の小魚と同じ扱いされる感じや」


「生々しい例えですね、それ」


「よし、午後も頑張るわよ。次こそ、ちゃんと反応してくれる人、見つけたるんやから」


「その意気込み、映え板に投稿したら伸びそうですね」


「リアルで伸びんもんが、なんで投稿したら伸びるんよ!」


 あたしは、思わず突っ込みながらも、気を取り直して、チラシの束を持ち直した。

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