第六話 街の反応
「今月のノルマ、まだ全然なので。皆さん、街頭で配ってきてください」
バロウの号令で、あたしたちは、チラシを抱えて、興行街の大通りに立たされることになった。
「ヴィクトリアさん、映え板のフォロワーの人たちが見たら、びっくりしますね」
「まあね。あたし、こういう地道な活動もするタイプだから」
あたしは、余裕たっぷりにそう答え、道行く人に、堂々とチラシを差し出した。
「銀月座の新作公演、よろしければ――」
「あ、大丈夫です」
目も合わせず、素通りされる。
「銀月座の――」
「結構です」
また、素通り。十人、二十人と続けたが、誰一人として振り返らない。
「まるで、無料サンプル配ってるのに、試食コーナーごと避けられてる気分やわ」
隣で配っていたノエルが、感心したように頷いた。
「うまいこと言いますね、そういう時だけ」
「そういう時だけ言うな」
*
三十人目、ようやく一人の女性が、チラシに目を止めてくれた。
「銀月座……ああ、あの、小さい劇団の」
「小さいって言うな! いずれ首都に殴り込みかける劇団や!」
「殴り込むんですか、これ」
「たとえよ、たとえ」
女性は、そのまま何も言わず、チラシだけ受け取って去っていった。
「反応薄すぎるやろ! せめてリアクション芸くらい見せてくれや!」
「お客さんに求めすぎです」
ノエルが、冷静にそう突っ込んだ。
*
しばらくして、一人の中年男性が、あたしのチラシを、興味深そうに受け取ってくれた。
「銀月座って、あの、面白い劇団だっけ」
「あ、はい! ご存知ですか?」
「前に一回だけ観たよ。なんか、女優さんがセリフ噛んで、客席にキレてた回」
「……それ、あたしなんですけど」
「え、そうなの!」
「そうそう、この顔だ! あれ面白かったよ、また観に行くわ」
「あの、演技の方も評価してほしいんですけど」
「いやいや、あの瞬間の勢い、他にないから」
「まるで、花火大会の後にゴミ拾いだけ褒められてる気分やわ」
「例え、うまいね」
「褒められた気がしないんですけど、それ」
*
昼過ぎ、休憩がてら、あたしはノエルと並んで、道端に座り込んでいた。
「今日、何枚配れました?」
「聞くな。まるで、砂漠でアイス売り歩いた結果だけ聞かれてる気分やわ」
「よく分からないですけど、配れてないってことですね」
「そういうことになる」
「映え板だと即バズるのに、リアルだと空気なの、なんでなんでしょうね」
「知らんがな。まるで、水槽の中では派手な熱帯魚なのに、水から出た瞬間、その辺の小魚と同じ扱いされる感じや」
「生々しい例えですね、それ」
「よし、午後も頑張るわよ。次こそ、ちゃんと反応してくれる人、見つけたるんやから」
「その意気込み、映え板に投稿したら伸びそうですね」
「リアルで伸びんもんが、なんで投稿したら伸びるんよ!」
あたしは、思わず突っ込みながらも、気を取り直して、チラシの束を持ち直した。




