第五話 次は絶対いける
「今月も、グランディアの劇団のオーディション、応募したから」
楽屋で、あたしはノエルに、そう報告した。
「何回目ですか、それ」
「さあ。もう数えてないわ」
これまで送り続けた応募書類は、軽く二桁を超えている。だが、返事が来たことは、一度もなかった。
*
数日後、ようやく一通の返信が届いた。
『この度は、ご応募いただきありがとうございます。誠に残念ながら、今回はご期待に添えない結果となりました』
あたしは、その一文を、何度も読み返した。
「……これ、褒めてるんちゃう?」
「え?」
「『ご期待に添えない』って、つまり、あたしの実力が、向こうの期待を超えすぎてたってことよね」
「それ、逆じゃないですかね……」
「逆じゃないわ。読み方の問題よ」
「その読み方、まるで赤信号を『止まれ』じゃなくて『情熱の色』って読むようなもんですよ」
「情熱的でええやん、それ」
「よくないですよ」
*
その夜、あたしは映え板に、こんな投稿をした。
『今日もオーディション落ちました。でも次は絶対いけると思う』
コメントは、すぐについた。
『これ何回目の「次は絶対」ですか』
『毎回言ってません?』
『応募し続けるメンタル、逆に尊敬します』
「そういうポジティブさこそ、勝利者の資質ってものよ。名前の通り、あたしにはいつだって勝利が約束されてるの」
『それはそう』
『そこは認める』
『いっそお笑い芸人のオーディション受けたら受かる気しかしません』
「誰がツッコミ待ちやねん!……って、今の切り返し、我ながら完璧やったやろがい!」
『今のツッコミ、テンポ良すぎません?』
『女優より向いてる説、浮上』
女優としての評価ではなく、笑いの才能を褒められている。それでも、あたしは、それを「才能を認められた」の一種として、都合よく受け止めることにした。
*
翌日、座長のバロウが、少し呆れたような顔で、こんなことを言ってきた。
「お前、またグランディアの劇団、応募したのか」
「してますけど」
「まあ、その意欲は買うけどな」
「でしょ?」
「意欲だけは、な」
「それ、まるで的の外側だけ完璧に狙えてる矢みたいな言い方ですね」
「言い得て妙だな、それ」
「褒めてないですよね」
「バロウも見てなさい。いつか絶対、あたしは首都グランディアの舞台に立つから」
「はいはい」
バロウは、そう言いながら、次の準備に戻っていった。
あたしは、その背中を見ながら、心の中で、もう一度誓った。
次こそ、絶対にいける。




