第四話 アメリアという女
銀月座の看板女優は、あたし。そう思っているのは、たぶん、あたしだけではない、はずだ。
共演のアメリアは、あたしと同期で入団した女優だった。物静かで、あまり自分から前に出るタイプではない。だが、なぜか、客からの評判も、劇団内での扱いも、いつの間にかあたしと肩を並べるくらいになっていた。
(まあ、あたしのライバルとして、それなりに認められてるってことよね)
*
ある日の稽古終わり、アメリアが、珍しく話しかけてきた。
「ヴィクトリア、今度の新作、主演どっちがやるか、まだ決まってないのよね」
「そんなの、あたしに決まってるでしょ」
「そう? バロウさん、まだ迷ってるみたいだけど」
「あんたと張り合うつもりはないけど、実力差は、犬と猫くらい離れてるから」
「それ、どっちがどっちなの」
「もちろん、あたしが犬」
「犬でいいの、それ」
「忠実で、賢くて、愛される。犬の方が良いに決まってるでしょ」
「その理屈だと、私が猫ってことになるけど」
「猫は猫で、それはそれで需要あるから安心して」
*
数日後、主演が発表された。結果は、アメリアだった。
「な、なんでよ!」
あたしは、思わず素で叫んだ。
バロウが、少し困った顔で説明した。
「今回の役、客に媚びない静かな演技が求められる役でな。お前だと、どうしても目立ちすぎる」
「それ、あたしの魅力ってことちゃうん?」
「まあ、そういう見方もできるけどな」
*
その夜、あたしは、アメリアの楽屋に、思い切って乗り込んだ。
「あんた、あたしより演技うまいと思ってるん?」
「思ってないわよ、別に」
「じゃあ、なんで選ばれたんよ」
「求められてる役柄が違うだけ。ヴィクトリアの持ち味は、こういう静かな役には向いてないってだけ」
「持ち味て、具体的にどういうことよ」
「客席をどうしても沸かせちゃう感じ、かな」
「それ、まるで花火に『音出さんとって』言うてるようなもんやん」
「例えるならそうかもね」
「例えられても困るんよ!」
「客席がどっと沸くの、演出じゃ出せない味だから。あれは、あれで、才能だと思ってるけど」
アメリアは、そう言うと、興味を失ったように、鏡の前で化粧を直し始めた。
「……花火は花火で、音を出してこそ意味があるってことよね」
「そうね」
あたしは、その背中に、何と言い返せばいいのか分からず、しばらく立ち尽くしていた。
(褒められた……のよね、今の)
結局、その日、あたしは、何とも言えないモヤモヤを抱えたまま、楽屋を後にした。




