第十話 衣装は正義
「ガス、今度の衣装なんだけど」
稽古の合間、あたしは、裏方のガスに、そう切り出した。
「なんだよ」
「もっと派手にしてほしいのよ。今のままじゃ、地味すぎるわ」
「今回の役、質素な村娘の役だろ。派手にする理由がない」
「理由なら、あたしがいるって理由で十分でしょ」
「予算の理由の方が優先される」
あたしは、少し食い下がることにした。
「見て。今の衣装、まるで炊き出しの列に並んでる人みたいな地味さやん」
「役に合ってるからな、それで」
「合ってても困るんよ、あたしの華やかさが台無しになるから」
*
翌日、あたしは、こっそり自前のアクセサリーを衣装に足して、稽古に出た。
「なんだよ、それ」
「これくらいなら、良いアクセントになるでしょ」
村娘の質素な衣装に、大ぶりの首飾りと、光沢のある羽根飾りが、不自然に主張していた。
「まるで、地味な弁当に、金箔だけ振りかけたみたいだな」
「悪くない例えやん、それ」
「褒めてない」
ガスは、そう言うと、あたしの首から、無言で首飾りを取り上げた。
「返しなさいよ!」
「舞台に集中しろ」
*
その日の本番、あたしは、こっそり隠し持っていた別の羽根飾りを、髪に挿して舞台に出た。
「あの村娘、なんか頭に鳥乗ってません?」
客席から、そんな声が上がった。
「鳥やない! 羽根飾りや!」
思わず、素で言い返してしまった。客席が、また小さくどよめいた。
*
舞台袖に戻ると、ガスが、呆れた顔で待っていた。
「懲りないな、お前」
「あたしにも、譲れない美学があんねん」
「美学の前に、役があるだろ」
「役の前に、あたしがおるやろ」
「その理屈、いつも聞くけど、いつまで経っても分からない」
ガスは、そう言いながらも、少しだけ口の端を上げていた。
「まあ、次の衣装合わせ、少しだけ、アクセントになる小物、一個だけ考えてやる」
「え、ほんまに?」
「その代わり、舞台では、勝手に足すな」
「一個だけって、ケチくさいんよ」
「一個で十分だ、お前の場合」
あたしは、少し不服そうな顔をしたが、内心では、意外な譲歩に、悪くない気分になっていた。
(まあ、ガスもあたしの美学、ちょっとは認めてるってことよね)
実のところ、ガスが「一個だけ」と言いながらも、わざわざ次の衣装合わせの前に、あたし好みの小物をいくつか見繕っていたことを、あたしはまだ知らなかった。




