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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第十話 衣装は正義

「ガス、今度の衣装なんだけど」


 稽古の合間、あたしは、裏方のガスに、そう切り出した。


「なんだよ」


「もっと派手にしてほしいのよ。今のままじゃ、地味すぎるわ」


「今回の役、質素な村娘の役だろ。派手にする理由がない」


「理由なら、あたしがいるって理由で十分でしょ」


「予算の理由の方が優先される」


 あたしは、少し食い下がることにした。


「見て。今の衣装、まるで炊き出しの列に並んでる人みたいな地味さやん」


「役に合ってるからな、それで」


「合ってても困るんよ、あたしの華やかさが台無しになるから」



 翌日、あたしは、こっそり自前のアクセサリーを衣装に足して、稽古に出た。


「なんだよ、それ」


「これくらいなら、良いアクセントになるでしょ」


 村娘の質素な衣装に、大ぶりの首飾りと、光沢のある羽根飾りが、不自然に主張していた。


「まるで、地味な弁当に、金箔だけ振りかけたみたいだな」


「悪くない例えやん、それ」


「褒めてない」


 ガスは、そう言うと、あたしの首から、無言で首飾りを取り上げた。


「返しなさいよ!」


「舞台に集中しろ」



 その日の本番、あたしは、こっそり隠し持っていた別の羽根飾りを、髪に挿して舞台に出た。


「あの村娘、なんか頭に鳥乗ってません?」


 客席から、そんな声が上がった。


「鳥やない! 羽根飾りや!」


 思わず、素で言い返してしまった。客席が、また小さくどよめいた。



 舞台袖に戻ると、ガスが、呆れた顔で待っていた。


「懲りないな、お前」


「あたしにも、譲れない美学があんねん」


「美学の前に、役があるだろ」


「役の前に、あたしがおるやろ」


「その理屈、いつも聞くけど、いつまで経っても分からない」


 ガスは、そう言いながらも、少しだけ口の端を上げていた。


「まあ、次の衣装合わせ、少しだけ、アクセントになる小物、一個だけ考えてやる」


「え、ほんまに?」


「その代わり、舞台では、勝手に足すな」


「一個だけって、ケチくさいんよ」


「一個で十分だ、お前の場合」


 あたしは、少し不服そうな顔をしたが、内心では、意外な譲歩に、悪くない気分になっていた。


(まあ、ガスもあたしの美学、ちょっとは認めてるってことよね)


 実のところ、ガスが「一個だけ」と言いながらも、わざわざ次の衣装合わせの前に、あたし好みの小物をいくつか見繕っていたことを、あたしはまだ知らなかった。

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