第十一話 ノエルが慕う理由
「ヴィクトリアさん、今日も素敵です!」
いつものように、ノエルが目を輝かせながら、あたしを持ち上げてくる。
「でしょ。分かってるじゃない、ノエルは」
あたしは、当然のようにそれを受け止めていたが、ふと、気になったことがあった。
「そういえば、ノエルって、なんでそんなにあたしのこと持ち上げてくれるの」
「え、それは、ヴィクトリアさんが素敵だからです」
「それはそうだけど、他の劇団員は、もうちょっと普通に接してくるでしょ。ノエルだけ、ずっと熱量高いわよね」
ノエルは、少し照れたような顔をした。
「実は、あたし、入団する前、一度だけヴィクトリアさんの舞台、観たことあるんです」
「え、そうなの?」
「はい。まだ入団志望する前、他の劇団のオーディションに何回も落ちて、辞めようかどうか迷ってた時期で」
ノエルは、少し遠い目をしながら、続けた。
「その時、たまたま銀月座の舞台を観に来て。ヴィクトリアさんが、セリフ噛んで、客席にキレて、それでも堂々と続けてる姿、観てて」
「あー、あれね」
「あの時、なんか、失敗しても堂々としてていいんだって、思えたんです」
あたしは、少し面食らった。
「別に、あれは失敗を堂々と受け止めてたわけじゃなくて、ただキレてただけなんだけど」
「それでも、です。あの日から、あたし、ヴィクトリアさんみたいになりたくて、この劇団を志望したんです」
あたしは、その言葉に、なんとも言えない気持ちになった。
(あたしみたいに、って、あたしの何を目指してるのかしら)
だが、それを口には出さず、あたしは、いつも通りの調子で返すことにした。
「まあ、あたしを目指すなら、いい心がけよ」
「ですよね!」
*
その日の帰り道、あたしは、ノエルの話を、少し反芻していた。
あたしは、ただ、自分の信じる自分を、貫いてきただけのつもりだった。それを、真正面から「憧れ」として受け止められると、正直、いつもとは違う種類の気恥ずかしさがあった。
だが、同時に、少しだけ、誇らしい気持ちもあった。
どんな理由であれ、あたしの舞台を見て、何かを持ち帰ってくれた人間がいる。それだけは、疑いようのない事実だった。
「まあ、こういうのも、悪くないものね」
あたしは、そう小さく呟きながら、いつもより少しだけ、軽い足取りで帰路についた。
ちょっとキャラ紹介的なエピソードを2話ほど挟もうと色々考えたところ、全然違う作風になってしまった気がします。
次から軌道修正します。




