第十二話 チケットノルマと引き換えの合コン
「今月のチケットノルマ、まだ半分も売れてないですよ」
座長のバロウに、事務的にそう告げられた。
「まるで、宝くじ売り場で当選番号発表される前から、外れ確定してる気分やわ」
「例えてないで、ちゃんと売ってこい」
銀月座では、出演者それぞれに、チケットの手売りノルマが課せられている。人気があるはずのあたしが、こんなことで苦戦するのは、正直、屈辱だった。
「分かってます。あたしにはあたしのやり方があるので」
そう言い切ったものの、実際のところ、当てはあまりなかった。
*
そんな折、映え板経由で、変な男から連絡が来た。
『チケット、まとめて何十枚か買います。その代わり、一つお願いがあって』
妙な提案だったが、藁にもすがる気持ちで、あたしはその男――ダニーとやらと会うことにした。
「チケット、これだけ買います。その代わり、今度、二対二の合コンやりたくて。僕と、同僚のカインで。そっちも、銀月座の子を誘って二人で来てもらえませんか」
「……はぁ?」
「僕、いいやつなんで! 同僚のカインってのが、すごくいい男で」
「まるで、路上で急に『社長です』って名刺渡してくる人みたいな怪しさやけど」
「怪しくないです!」
「まあ、ノルマ達成できるなら、なんでもええわ」
その足で、あたしはノエルに声をかけた。
「ノエル、今度、合コンあるんだけど、一緒に来てくれない?」
「え、ヴィクトリアさんが合コンって、珍しいですね」
「チケットのノルマがかかってるから、これは仕事なの」
「仕事なんですか、それ」
「仕事よ。むしろ、営業活動の一環だと思ってる」
「その理屈で行くの、逆にすごいです」
結局、ノエルは、とりあえず参加を引き受けてくれた。
*
当日、会った男――カインは、確かに悪くない見た目をしていた。
「え、カインさんカッコイイですね!」
あたしは、そう素直な感想を口にした。営業活動とはいえ、こっちは労力割いて来てあげてるんだから、見た目のいい男くらいのご褒美があって当然よね。
会は、それなりに盛り上がっていった。あたしも、女優らしい上品な喋り方で、場を彩っていたつもりだった。ノエルも、隣で楽しそうに笑っており、悪くない雰囲気だった。
だが、その空気は、思わぬ形で崩れた。
柄の悪い集団が店に入ってきて、大声で騒ぎ出したのだ。
「ああいうの、ちょっと苦手かも……」
ノエルが、思わず本音を漏らした。
(面倒なことにならなきゃいいけど)
あたしがそう考えている間に、あのダニーとかいう男が、なぜか突然、カインをけしかけ始めた。
「カイン、お前強いんだから、あんなの余裕でしょ」
「あいつらやっつけようぜ」
止める間もなく、ダニーたちは柄の悪い連中に絡みに行き、あっという間に店員に追い出される羽目になった。
*
「なんやのあれ!」
店の外に出た瞬間、あたしは、我慢の限界を超えて、素で叫んでいた。
「まるで、お見合いの席で、いきなり相手が土下座して借金頼んできた気分やわ!」
「たとえが具体的すぎます」
ノエルが、冷静にそう突っ込んだ。
「ノエル、見た?あの流れ!」
「見ました……なんか、あっという間に修羅場になってましたね」
「せっかくチケットのために来たったのに、こっちの気分まで台無しやんか!」
「ヴィクトリアさん、関西弁出てます」
「ほっとけ! 誰があんな野蛮人の肩持つと思ってんねん! いいところ見せようとか言うてたけど、いいところ、一個も見せられてへんかったやろ! まるで、プレゼン資料完璧に作ってきて、当日データ消えてる新人みたいなもんやんか!」
「例えの精度だけは上がってますね」
あたしは、その場でしばらく毒づき続けた。
「まあでも」
ひとしきり吐き出した後、あたしは、少し冷静になって続けた。
「チケットの分、払ってもらった義理はあるし。これでチャラってことにしといたるわ」
「太っ腹ですね」
「あたし、器がでかいから」
「その器、さっきまでの毒づき方と、ちょっと矛盾してません?」
「うるさいな! 器がでかい人間は、毒づいたらあかんってルールでもあるんか!」
結局、あの日の顛末について、ダニーという男に文句を言う機会は、二度と訪れなかった。あたしの中では、あの一件は、「ノルマ達成のための、ちょっとした災難」という扱いで、静かに処理されることになった。
こちらは、私の投稿中の別作品「愚王と呼ばれた男」の第十五話とのクロスオーバーです。
何となく自分の他作品とクロスオーバーさせてみたくなり試してみましたが、難しいものですね。よろしければそちらもご覧ください。
https://ncode.syosetu.com/n3253mn/




