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勝利を約束された女  作者: 中原九尾


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第十三話 客演の声がかからない

「今度、隣町の劇団から、客演の話来たんですよね」


 楽屋で、ノエルが、少し照れくさそうにそう報告した。客演というのは、所属している劇団以外の舞台に、ゲスト出演のような形で呼ばれることを指す。声がかかる頻度は、そのまま業界内での評判の目安にもなっていた。


「え、あんたに?」


「はい。ワンシーンだけですけど」


「へえ、まあ、いい経験になるんちゃう」


 あたしは、そう言いながらも、内心では、少しざわついていた。



 その数日後、今度はアメリアのもとにも、別の劇団から声がかかったという話が耳に入ってきた。


「アメリアも客演?」


「ええ、来月ね」


「ふうん」


 あたしは、努めて平静を装った。


(大丈夫。あたしのところにも、そのうち声がかかるはず)



 だが、それから何週間経っても、あたしのもとには、そういった話が一切来なかった。


「なあ、バロウ」


 あたしは、思い切って、座長に尋ねてみることにした。


「客演の話って、あたしにはこないもんなん?」


「ああ……」


 バロウは、少し言いにくそうな顔をした。


「まあ、お前のスタイル、ちょっと独特だからな。うちみたいな小さい劇団じゃ活きるけど、他所だと合わせるの、難しいと思われてるのかもな」


「独特って、まるでパクチーみたいな言い方やん」


「言い得て妙だな」


「褒めてないんよ、それ」



 その夜、あたしは、映え板に、それとなく投稿することにした。


『最近、客演のお話、色々いただいてます。時期見て発表しますね』


 もちろん、嘘だった。だが、こう書いておけば、次に何か動きがあった時、都合よく繋げられる。


 コメントは、すぐについた。


『どこの劇団ですか』

『具体的な話、全然聞かないですね』

『まるで、宝くじ当たったって言いながら、換金してない人みたいですね』


「誰が未換金じゃ! もう心の中では豪遊済みやねん!」


 あたしは、思わずそう打ち込んでしまった。


『今の反応で、嘘だってバレましたねw』

『墓穴の掘り方が芸術的』

『お笑いの劇団なら、客演どころか主演狙えそうですね』



 翌日、稽古終わりに、あたしはノエルに、こっそり尋ねてみた。


「なあ、正直に言うてほしいんやけど。あたしって、他所の劇団から見て、どう思われてるんかな」


「え、それは……」


 ノエルは、少し言葉に詰まった。


「正直、面白い人だとは思われてると思います。でも、一緒の舞台に立つとなると、ちょっと予測できないというか」


「予測できないのは、悪いことちゃうやろ」


「悪くはないんですけど、客演って、他所の劇団の色に合わせる仕事でもあるので……」


「つまり、あたしは、パクチーと同じで、好きな人にはとことん刺さるけど、無理な人には一生無理なタイプってことか」


「よく分からないですけど、たぶんそうだと思います」


 あたしは、しばらく黙り込んだ。



 だが、その夜には、あたしはすでに、こう結論づけていた。


「まあ、あたしは、誰かの色に染まるタイプやないってことよ。むしろ、あたしの色に、いつか周りが合わせてくる日が来るってことやわ」


 結局、その考えを、そのまま映え板に投稿した。


『客演で染まるより、自分の色を貫く女優でいたいの』


 コメントは、すぐについた。


『それただのオファーなし、で説明つきません?』

『前向きすぎて逆に切ない』


「うるさいな! これはあたしの美学やねん!」


 あたしは、そう言い返しながらも、内心では、ほんの少しだけ、その通りかもしれないと思っていた。だが、それを認めるのは、もう少し先でいいと思っていた。

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