第十三話 客演の声がかからない
「今度、隣町の劇団から、客演の話来たんですよね」
楽屋で、ノエルが、少し照れくさそうにそう報告した。客演というのは、所属している劇団以外の舞台に、ゲスト出演のような形で呼ばれることを指す。声がかかる頻度は、そのまま業界内での評判の目安にもなっていた。
「え、あんたに?」
「はい。ワンシーンだけですけど」
「へえ、まあ、いい経験になるんちゃう」
あたしは、そう言いながらも、内心では、少しざわついていた。
*
その数日後、今度はアメリアのもとにも、別の劇団から声がかかったという話が耳に入ってきた。
「アメリアも客演?」
「ええ、来月ね」
「ふうん」
あたしは、努めて平静を装った。
(大丈夫。あたしのところにも、そのうち声がかかるはず)
*
だが、それから何週間経っても、あたしのもとには、そういった話が一切来なかった。
「なあ、バロウ」
あたしは、思い切って、座長に尋ねてみることにした。
「客演の話って、あたしにはこないもんなん?」
「ああ……」
バロウは、少し言いにくそうな顔をした。
「まあ、お前のスタイル、ちょっと独特だからな。うちみたいな小さい劇団じゃ活きるけど、他所だと合わせるの、難しいと思われてるのかもな」
「独特って、まるでパクチーみたいな言い方やん」
「言い得て妙だな」
「褒めてないんよ、それ」
*
その夜、あたしは、映え板に、それとなく投稿することにした。
『最近、客演のお話、色々いただいてます。時期見て発表しますね』
もちろん、嘘だった。だが、こう書いておけば、次に何か動きがあった時、都合よく繋げられる。
コメントは、すぐについた。
『どこの劇団ですか』
『具体的な話、全然聞かないですね』
『まるで、宝くじ当たったって言いながら、換金してない人みたいですね』
「誰が未換金じゃ! もう心の中では豪遊済みやねん!」
あたしは、思わずそう打ち込んでしまった。
『今の反応で、嘘だってバレましたねw』
『墓穴の掘り方が芸術的』
『お笑いの劇団なら、客演どころか主演狙えそうですね』
*
翌日、稽古終わりに、あたしはノエルに、こっそり尋ねてみた。
「なあ、正直に言うてほしいんやけど。あたしって、他所の劇団から見て、どう思われてるんかな」
「え、それは……」
ノエルは、少し言葉に詰まった。
「正直、面白い人だとは思われてると思います。でも、一緒の舞台に立つとなると、ちょっと予測できないというか」
「予測できないのは、悪いことちゃうやろ」
「悪くはないんですけど、客演って、他所の劇団の色に合わせる仕事でもあるので……」
「つまり、あたしは、パクチーと同じで、好きな人にはとことん刺さるけど、無理な人には一生無理なタイプってことか」
「よく分からないですけど、たぶんそうだと思います」
あたしは、しばらく黙り込んだ。
*
だが、その夜には、あたしはすでに、こう結論づけていた。
「まあ、あたしは、誰かの色に染まるタイプやないってことよ。むしろ、あたしの色に、いつか周りが合わせてくる日が来るってことやわ」
結局、その考えを、そのまま映え板に投稿した。
『客演で染まるより、自分の色を貫く女優でいたいの』
コメントは、すぐについた。
『それただのオファーなし、で説明つきません?』
『前向きすぎて逆に切ない』
「うるさいな! これはあたしの美学やねん!」
あたしは、そう言い返しながらも、内心では、ほんの少しだけ、その通りかもしれないと思っていた。だが、それを認めるのは、もう少し先でいいと思っていた。




