第十四話 座長の目算
「なあ、バロウ」
閉演後、片付けをしながら、あたしはふと尋ねてみた。
「この劇団、いつから始めたん?」
「もう十五年くらいになるかな」
「そんな長いこと、よう続けてこれたな」
「まあ、色々あったよ」
バロウは、そう言いながら、懐かしそうな目をした。
「最初は、俺一人で始めたようなもんでな。客もろくに入らない時期が、何年も続いた」
「へえ」
「潮目が変わったのは、お前が入ってきてからだよ」
「え、あたし?」
あたしは、思わず声を上げた。
「お前が舞台でセリフ噛んで、客席にキレる。あれが、口コミで広がってな。おかしな評判だったけど、とにかく、客が来るようになった」
「それ、あたしの演技力が評価されたってわけやないやん」
「まあ、そうだけど」
「そうだけどて」
バロウは、少し苦笑した。
「でも、結果的に、この劇団を今も続けられてるのは、お前のおかげでもある。それは、事実だから」
*
その言葉に、あたしは、なんとも言えない気持ちになった。
「なあ、バロウは、あたしの演技、本当はどう思ってるん」
「正直に言っていいか」
「言うて」
「演技力だけで言えば、アメリアの方が上だと思ってる」
「うっ」
「でも、客を惹きつける力は、お前の方が圧倒的にある。それは、演技力とはまた別の才能だ」
「それ、まるで、教科書には載らへんけど、伝説として語り継がれるタイプの武将、みたいな言い方やん」
「言い得て妙だな」
「褒めてるようで、微妙に貶してるやん、それ」
「褒めてるつもりだけどな」
*
その夜、あたしは、少し複雑な気持ちを抱えたまま、劇場を後にした。
演技力では評価されていない。だが、それとは別の何かで、この劇団を支えている。その事実を、どう受け止めればいいのか、正直、まだよく分からなかった。
だが、少なくとも、バロウが、あたしをただの客寄せパンダとしか見ていないわけではない、ということだけは、なんとなく伝わってきた。
「まあ、伝説として語り継がれる女優として、これからも生きていくか」
あたしは、そう小さく呟きながら、いつもより少しだけ、軽い足取りで帰路についた。




