第十五話 外部講師の洗礼
「今度、外部の特別講習、一緒に受けない?」
アメリアが、珍しくそう誘ってきた。
「え、あんたと?」
「たまには、外の空気吸うのもいいでしょ」
あたしは、少し迷ったが、自分の演技をさらに磨く機会だと思い、参加することにした。
*
当日、講師を務めるのは、首都グランディアでも活動歴があるという、初老の演出家だった。
「では、まず簡単な発声練習から」
あたしは、堂々と、腹の底から声を出した。
「もっと感情を乗せて」
「乗せてます!」
「乗せすぎです」
「え?」
「感情の量が、シーンに対して明らかに過剰です。もう少し、抑えて」
あたしは、少しむっとしたが、ひとまず言われた通りにしてみた。
「……まだ、多いですね」
「これ以上抑えたら、無、になりますけど」
「その無、を、まず一度経験してみてください」
その場にいた他の受講生たちが、小さく笑った。
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休憩中、アメリアが、あたしにそっと声をかけてきた。
「大丈夫?」
「大丈夫やない。まるで、火を消せ言われて、灰にされてる気分やわ」
「例えが極端すぎるでしょ」
「極端な指導受けたから、極端に返してるだけや」
一方、アメリアは、講師から「安定感がある」「感情の抑え方が上手い」と、素直な評価を受けていた。
「あんたは、褒められてばっかりやん」
「そうでもないわよ。もっと踏み込んでほしいとも言われたし」
「贅沢な悩みやな、それ」
*
午後の実技では、二人一組での即興演技が課された。あたしとアメリアの組み合わせになった。
「じゃあ、些細な喧嘩のシーンを、即興でやってみましょう」
あたしは、思い切り感情を爆発させる演技を始めた。
「なんであんたはいつもそうなんよ!」
「ちょっと、台本にない関西弁、出てるけど」
「これがあたしの喧嘩スタイルや!」
「即興でも、キャラは保って」
講師が、少し困った顔で見ていた。
「……悪くはないですが、あなたの中の『素』が、演技の途中で顔を出しすぎますね」
「それ、悪いことなんですか」
「舞台上では、時に困りますね。でも」
講師は、少し考えるような間を置いてから、続けた。
「その『素』の勢い、嫌いじゃないです」
あたしは、思わず聞き返した。
「え、それって」
「悪くはない、という意味です。ただ、制御を覚えると、もっと武器になる」
*
その日の帰り道、あたしは、アメリアに、その言葉を反芻しながら話した。
「制御を覚えたら武器になるって、つまり今は、狙いも定めずに、力任せに振り回してる剣ってことよね」
「まあ、物騒な例えだけど、そうとも言えるわね」
「でも、いつか制御覚えたら、まるで聖剣やん、あたし」
「聖剣て、自分で言う?」
「誰が魔剣じゃ!」
「まあ、聖剣か魔剣かは、これからの磨き方次第ってことね」
「なんか、微妙に嬉しいような、腹立つような」
「両方受け止めればいいんじゃない」
あたしは、その日習ったことを、頭の中で何度も繰り返しながら、家路についた。今日のところは、素直に、次にも活かそうと思っていた。




