↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
自称・看板女優の私、ヤジには関西弁でツッコミ、SNSでは毎日コメント欄で漫才。女優のはずが芸人枠でした ~名前の意味は「勝利」~  作者: 中原九尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
64/65

第六十四話 あたしなりの答え

 みんなが帰った後、あたしは、一人、稽古場に残って、これまでのことを、ゆっくりと振り返っていた。


「憧れの首都に行くための手段として、女優をやっとるんか。それとも、女優として頂点を極めるために、首都に行きたいんか」


 あの日、アメリアに投げかけた問い。答えは、まだ、出ていなかった。


*


「一人で何ブツブツ言うてますの」


 いつの間にか、セレナが、稽古場の入り口に立っていた。


「うわ、いつからおったんや」


「今来ましたわ。何か、考え事?」


「まあ、ちょっとな」


「珍しいですわね、あなたが悩むなんて」


「悩む時くらいあるやろ、あたしにも」


「常に自信満々な印象しかありませんでしたけど」


「その印象、地味に傷つくんやけどな」


*


「あたし、結局、キラキラした首都の生活に憧れて、そのために女優やってるだけなんか。それとも、女優としてもっと上、目指したくて、その先に首都があるだけなんか。まだ、よう分からんままなんよな」


「それ、今、答えを出さなければいけませんの?」


「せやんな。アメリアにも、同じこと言われたわ」


「彼女、良いこと言いますわね」


「あんたも、彼女推しなんかい」


「そういう話ではないと思いますけど」


*


「一つだけ、言わせてもらってもいいかしら」


 セレナが、そう言うと、あたしは、少し身構えた。


「なんや」


「首都の生活だけが目的なら、あなた、もっと違うやり方、選んでたはずですわ」


「例えば?」


「玉の輿とか」


「なんでや!」


「あら、真剣に検討したことないんですの?」


「そんな人生設計、思いついた瞬間に自分にビンタしたいレベルやわ!」


*


「あなたが、あんなに稽古熱心で、あんなに舞台に立つことに、命賭けてるみたいに見えるの。あれは、演技そのものが、好きだからだと思いますわ」


 その言葉に、あたしは、思わず、頬が熱くなるのを感じた。


「な、なんや、急に、まともなこと言うから、調子狂うやんか」


「照れてますの?」


「て、照れてへんわ!」


「顔、赤いですけど」


「照明のせいや!」


 稽古場の照明は、いつもと変わらない、ただの白い光だった。


*


「まあ、結局」


 あたしは、少し咳払いをしてから、続けた。


「演技も好きやし、首都への憧れも、まだ捨てきれてへん。その両方、抱えたまま、やっていくしかないんかもな」


「それで、いいと思いますわ」


「あんたに認めてもらえると、なんか、安心するわ」


「私は、あなたの何でもないですけど」


「何でもないのに、こんな時間まで、付き合ってくれとるやんか」


「それは、まあ……推しの悩みくらい、聞きますわよ」


 その一言に、あたしは、思わず、聞き返した。


「今、推しって言うたな」


「言いましたわ。それは、否定しません」


「そこは開き直るんかい!」


「推しの定義に、恥ずかしがる要素、特にありませんし」


「その言い方、なんかツンデレの新形態やな」


「ツンデレとは、また違う気がしますけど」


 あたしは、少し、頬が熱くなるのを感じた。「推し」という言葉自体は、そこまで重い意味を持たないはずなのに、セレナの口から、真顔で言われると、なぜか、妙に照れくさかった。


「あたしが、あんたの推しって、それ、なんか、こそばゆいわ」


「今更ですの? 前々からそう言ってましたけど」


「あんたまで、その言い方、ミアと似てきとるで」


「彼女の影響ですわ、たぶん」


「うちの劇団、影響力すごいな、逆に」


*


「まあ、なんにせよ」


 あたしは、窓の外の、夜の街を、しばらく眺めた。照れ隠しに、もう一度、咳払いをする。


「今のあたしのままで、ゆっくり進んでいくことにするわ」


「それが、一番、あなたらしいと思いますわ」


「らしいって、便利な言葉やな」


「便利だけど、事実ですわよ」


 あたしたちは、そのやり取りに、揃って笑いながら、稽古場を後にした。


 答えは、まだ、はっきりとは出ていない。だが、それでいいのだと、あたしは、今は、そう思えるようになっていた。


 もっとも、今日の照れくささだけは、しばらく、忘れられそうになかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。