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自称・看板女優の私、ヤジには関西弁でツッコミ、SNSでは毎日コメント欄で漫才。女優のはずが芸人枠でした ~名前の意味は「勝利」~  作者: 中原九尾


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第六十五話 いつも通りの勝利

 それから、しばらく時間が経った。


 首都からの手紙は、その後も、時々届くようになった。だが、まだ、決定的な話には、繋がっていない。客演の依頼は、あれから、ぽつぽつと増えていった。金翼座との交流も、変わらず続いている。


 それでも、あたしの日常は、驚くほど、変わっていなかった。


*


「愛とは、かくも残酷なものね……」


 今日も、あたしは、舞台の上で、いつものセリフを、いつものテンションで、繰り出していた。


「セリフ噛んでるぞー!」


 客席から、いつものヤジが飛んでくる。


「噛んでへんわ!誰がやねん!」


 あたしは、いつもの調子で、そう切り返した。客席が、どっと沸く。


*


「今日も、いつも通りでしたね」


 舞台袖に戻ると、ノエルが、笑いながら、そう言った。


「せやな。何一つ、変わらへんかったわ」


「それでいいの?」


 アメリアが、そう尋ねてきた。


「ええんよ、それで」


 あたしは、そう、迷いなく答えた。


「私、あなた成長したと思ったんだけど、また元に戻ってない?」


「元に戻ったんやなくて、これが完成形なんよ」


「その言い切り方、いつも通り自信満々ね」


*


「以前は、変わらへんことに、焦ってた時期もあったけど」


 あたしは、稽古場の面々を見渡しながら、続けた。


「今は、この変わらへん日々が、なんか、一番、幸せなんかもって、思えるようになったわ」


「珍しく、まともなこと言うじゃない」


 アメリアが、そう茶化した。


「まともなことも、時々は言うんよ、あたしも」


「時々どころか、今月これで二回目よ」


「数えとんのかい!」


*


「まあ、考えてみたら」


 あたしは、少し得意げに、続けた。


「あたしの名前、ヴィクトリア。勝利って意味やろ」


「その話、何度も聞きました」


 ミアが、そう釘を刺した。


「聞いてても、もう一回言わせてくれ。あたしにとっての勝利は、首都に行くことだけやなかった、ってことに、最近、気づいたんよ」


「今日は、なんか、格好いいこと言おうとしてますね」


「せやろ。今のあたしの毎日、これも、ある種の勝利なんかもしれん」


「その理論だと、負けることが、ほぼ不可能になりません?」


「せやな。あたし、常に勝利し続けとるんよ」


「都合よすぎです」


*


 その夜、あたしは、いつも通り、映え板に、今日の出来事を投稿した。


『今日も、いつも通りのセリフ噛みでした。でも、いつも通りが、一番、幸せです。名前の意味は勝利。今日も、あたしの勝利です』


 コメントは、すぐについた。


『いつも通りが一番って、なんか良いですね』

『来月も、同じ調子でお願いします』

『毎日勝利してる人、初めて見ました』

『その理論、一度も負けを認める気がないですよね』


「誰が負け認めへん女じゃ! いや、まあ、認める予定も、今後も一切ないけど!」


 あたしは、そう打ち込みながら、少しだけ、誇らしい気持ちになった。


*


 結局、首都に行くという夢は、まだ、叶っていない。演技力で評価される日も、まだ、来ていない。


 だが、それでも、あたしには、この賑やかな日々があった。


 空回りしても、笑われても、それでも、そばにいてくれる仲間たちがいた。


 その事実だけで、今のあたしには、十分だった。


*


「よし、明日も、いつも通り、頑張るで!」


 あたしは、稽古場の窓を閉めながら、そう、声を上げた。


「はい!」


 みんなの、揃った返事が、いつものように、響いた。


「ちなみに、今日の稽古も、あたしの勝利やったな」


「毎日勝利にカウントするの、さすがにおかしいです」


 ミアが、最後まで、そう冷静に突っ込んだ。


「うるさいわ、細かいことは!」


 その一言に、稽古場が、また、賑やかな笑いに包まれた。


 こうして、銀月座の日々は、これまでと変わらず、これからも、賑やかに続いていく。


 特に何も変わらないまま、来月も、同じことをやっているだろう。


 それこそが、あたしにとっての、確かな幸福――いや、確かな勝利だった。


〈了〉

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

ちょっと漫才のような要素を取り入れたコメディを目指して書きました。少しでも楽しんで頂けていましたら嬉しいです。

もしよろしければ、ページ下の☆☆☆☆☆から評価をいただけると、今後の執筆の参考と励みになります。


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