第六十一話 変わったような、変わってないような
「なあ、最近、色々あったなあって思わへん?」
稽古前、あたしは、しみじみと、みんなに、そう漏らした。
「客演も、記事も、金翼座での本番も、確かに色々ありましたね」
ノエルが、頷いた。
「せやろ。あたし、もう、すっかり変わったんちゃうか」
「変わってません」
ミアが、即座に、そう突っ込んだ。
*
「今日の稽古、始めるで」
あたしが、そう号令をかけると、いつも通り、劇団員たちが、集まってきた。
「愛とは、かくも残酷なものね……」
いつものセリフを、いつものテンションで、あたしは、繰り出した。
「セリフ噛んでるぞー!」
ノエルが、いつもの調子で、そうヤジを飛ばす。
「噛んでへんわ!誰がやねん!」
あたしは、いつもの調子で、そう切り返した。
「……なんも変わってへんな、これ」
あたしは、思わず、その場で立ち止まった。
*
「客演もして、記事にも載ったのに、結局、いつも通りのことしとるわ」
「そういうものじゃない?」
アメリアが、そう、あっさりと言った。
「そういうもんなんかな」
「経験は増えても、根っこの部分って、そう簡単には変わらないものよ」
「なんか、深いこと言うやんか」
「たまにはね」
*
「まあ、変わった部分も、なくはないですよ」
ミアが、そう補足した。
「え、どこや」
「私が、映え板始めたこととか。看板の新調とか、フェスに出たこととか」
「せやな。周りの環境は、結構変わってきてるわな」
「あなた自身も、少しは変わってると思いますけど」
「あたし自身も?」
「以前より、人の話、ちゃんと聞くようになりましたよね」
「そら、話をちゃんと聞かんと、ボケも返せへんからな」
「その理由、成長というより、実利ですよね」
*
「まあ、なんにせよ」
あたしは、稽古場を見渡しながら、そう呟いた。
「基本のノリは、変わらず、これでいくで」
「はい!」
劇団員全員の、揃った返事が、稽古場に響いた。
「セリフ噛んでるぞー!」
誰かが、また、そうヤジを飛ばす。
「まだ噛んでへんわ!」
あたしは、思わず、そう叫んだ。まだ、セリフを言い始めてすらいなかった。
「先手で否定するの、逆に怪しいですよ」
ノエルが、冷静に、そう突っ込んだ。
稽古場に、いつも通りの、賑やかな笑いが起きた。
変わったところも、変わらないところも、両方抱えたまま、あたしたちの日々は、今日も、続いていく。




