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自称・看板女優の私、ヤジには関西弁でツッコミ、SNSでは毎日コメント欄で漫才。女優のはずが芸人枠でした ~名前の意味は「勝利」~  作者: 中原九尾


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第五十九話 金翼座の舞台に立つ

 本番当日、金翼座の劇場は、銀月座とは比べ物にならないほど、豪華な内装だった。


「ここで、あたし、大丈夫なんかな……」


 あたしは、楽屋の鏡の前で、少し弱気になっていた。


「今更、緊張してますの?」


 セレナが、そう声をかけてきた。


「今更やないわ。むしろ、今が一番、緊張のピークやで」


「らしくないですわね」


「らしくなくてもええやろ、こういう時は!」


*


 本番、あたしの出番は、物語の中盤、コミカルな空気を作る役どころだった。


「まあ、あなたのことよ。任せておけば大丈夫でしょう」


 セレナの、その一言を背に、あたしは、舞台へと足を踏み出した。


*


 金翼座の格式高い舞台の上で、あたしは、いつも通り、思い切って、演技をぶつけた。


「愛とは、かくも残酷なものね……」


 そのセリフを、あえて、大仰に、そして少し外して言ってみせた。すると、客席から、思わぬ笑いが起きた。


「セリフ噛んでるぞー!」


 いつものヤジが、この格式高い舞台でも、しっかり飛んできた。金翼座の常連客の中にも、噂を聞いて楽しみにしていた人がいたらしい。


「噛んでへんわ!誰がやねん!」


 その切り返しに、客席が、どっと沸いた。


*


 舞台袖で見ていたセレナの後輩たちが、驚いた顔をしていた。


「本当に、あんな感じの人が、うちの舞台に出るんですね……」


「でも、なんか、客席の空気、いつもより柔らかくなってません?」


 その反応に、セレナは、満足そうに、小さく頷いていた。


*


 あたしの出番が終わり、舞台袖に戻ると、共演した金翼座の劇団員たちが、口々に、声をかけてきた。


「すごく良かったです!」


「あんな自由な演技、初めて見ました」


「自由て、単に台本から逸脱しとるだけやと思うけどな」


「それも含めて、魅力的でした」


 あたしは、その言葉に、少し面食らいながらも、素直に嬉しくなった。


*


 終演後、セレナが、あたしのもとに、駆け寄ってきた。


「どうでしたの、初めての、うちの舞台は」


「緊張したけど……楽しかったわ、正直」


「それは、良かったですわ」


「あんたの劇団、格式高いだけやなくて、みんな優しいんやな」


「私が、そう育てましたのよ」


「今、地味に自慢してきたな」


「事実ですもの、ホホホ」


*


 その夜、あたしは、この日のことを、映え板に投稿した。


『初めて、他の劇団の舞台に立ちました。緊張したけど、楽しかったです』


 コメントは、すぐについた。


『金翼座の舞台に立つの、想像できなかったです』

『格式高い舞台でも、いつも通りだったんですね』

『でも、なんか、いい経験になったみたいで良かったです』


「せやろ。あたし、どこに行っても、あたしのままやからな」


 あたしは、そう呟きながら、この日の経験を、静かに、胸の中にしまい込んだ。


 こうして、あたしは、また一つ、新しい舞台を、自分のものにしていった。

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