第五十七話 客演、来ました
「ヴィクトリア、これ見てみ」
フェスから数日後、バロウが、一枚の手紙を持って、稽古場に飛び込んできた。
「え、なんや」
「客演の依頼だ」
「……は?」
あたしは、しばらく、その言葉の意味を、正しく理解できなかった。
「客演て、あの、客演?」
「そうだ。他の劇団から、正式にお前を呼びたいって」
「うそやん!」
*
「ついに来たんですね!」
ノエルが、目を輝かせながら、あたしに駆け寄ってきた。
「長かったわ……ほんまに、長かったわ……」
「そんなに大袈裟に言うことですか?」
ミアが、冷静に、そう突っ込んだ。
「大袈裟やない! これまでの人生、全部この日のためにあったんよ!」
「フェス一つで、そこまで話が大きくなるんですね」
*
喜びに浸る間もなく、あたしは、続けて、もう一通の手紙を受け取った。
「これも、客演の依頼や……!」
「え、二件目ですか」
「二件目! 人気、爆発しとる!」
「爆発というか、フェスの反響が、ちゃんと届いた結果でしょ」
アメリアが、冷静に、そう補足した。
*
「せやけど、内容、よう見てみ」
バロウが、少し困った顔で、手紙の詳細を指し示した。
『ヴィクトリア様には、ぜひ、コメディリリーフとしての客演をお願いしたく』
「コメディリリーフて!」
「もう一件も、似たような内容だ」
『予測不能なアドリブ力を活かした、笑いの要素として、ぜひ』
「あたし、笑いの要素としてしか、需要ないんか!?」
*
「まあ、それでも、客演は客演ですよね」
ノエルが、そう慰めるように言った。
「そうやけど……なんか、複雑やわ」
「複雑がりながらも、依頼書、しっかり抱えてるじゃないですか」
ミアが、そう突っ込んだ。
「そらそうやろ! 複雑でも、嬉しいのは嬉しいんよ!」
「その感情の忙しさ、見てて面白いです」
*
「まあ、どんな形でも、外に出る機会が増えるのは、いいことじゃない」
アメリアが、そう、まとめるように言った。
「せやな。演技力で評価されたい気持ちはあるけど……まずは、機会があること自体、ありがたいわな」
「その謙虚さ、珍しくて素敵じゃない」
「今、珍しくって言うたやろ!」
*
その夜、あたしは、映え板に、この喜びを、そのまま報告した。
『客演の依頼、二件いただきました! どちらもコメディ担当としてですが、嬉しいです!』
コメントは、すぐについた。
『おめでとうございます!』
『コメディ担当、逆に一番あなたらしいポジションだと思います』
『演技力枠じゃないの、地味に笑いました』
「誰が地味に笑われとんねん! あたしの笑いは地味やのうて、伝統芸能レベルの完成度やぞ!」
あたしは、そう打ち込みながらも、これまでの積み重ねが、少しずつ、確かな形になっていくのを、実感し始めていた。




