第五十六話 フェス、開幕
舞台袖から見える客席は、これまでのどの興行よりも、はるかに広く、埋まっていた。
「すごい人数やな……」
あたしは、思わず、声を漏らした。
「他の劇団のファンも、大勢来てるみたいですね」
ノエルが、同じく客席を見ながら、そう言った。
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最初の出番は、金翼座だった。セレナが、堂々とした立ち振る舞いで、舞台に立つ。
「さすが、あの落ち着き」
あたしは、その姿を、袖から見守った。演技は、いつも通り、洗練されていて、客席からは、大きな拍手が送られていた。
舞台袖に戻ってきたセレナが、あたしに気づいて、小さく笑いかけてきた。
「見てましたの?」
「ばっちり見せてもらったわ。さすがやな」
「あなたたちも、頑張ってらっしゃいな」
「言われんでも、やってやるわ」
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そして、いよいよ、銀月座の出番が回ってきた。
「よし、いくで、みんな」
「はい!」
全員の声が、揃って響いた。
舞台に出た瞬間、あたしは、これまでで一番の緊張を感じた。だが、同時に、これまでの積み重ねてきた自信も、確かにあった。
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「愛とは、かくも残酷なものね……」
声は、今日は、しっかりと出ていた。蜂蜜の効果か、あるいは、緊張が、逆に集中力を高めたのかもしれない。
「セリフ噛んでるぞー!」
客席から、いつものヤジが飛んできた。今日は、銀月座の常連ではなく、他の劇団を見に来た客のようだった。
「噛んでへんわ!誰がやねん!」
その切り返しに、客席が、どっと沸いた。初めて見る客層にも、いつもの空気が、しっかり伝わっているようだった。
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ノエルの感動シーンは、結局、練り直された通り、コメディ寄りの内容になっていた。その一生懸命さが、逆に、客席の笑いを誘っていた。
「泣かせるはずやったのに、笑わせとるやんか」
「これでも、いいと思います!」
舞台上で、そんな軽いやり取りが交わされ、また、客席が沸いた。
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ミアが手がけた舞台美術も、多くの客の目を引いていたようだった。
「あの背景、綺麗ですね」
そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
舞台袖で、その反応を聞いていたミアは、少しだけ、誇らしげな顔をしていた。
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三十分の持ち時間は、あっという間に過ぎていった。最後のシーンで、あたしは、締めの一言を、客席に向けて放った。
「今日は、来てくれて、ほんまにありがとう! 銀月座、これからも、どうぞよろしゅう!」
その一言に、客席から、これまでで一番の拍手が送られた。
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舞台袖に戻ると、劇団員全員が、汗だくの顔で、笑い合っていた。
「やり切ったな、みんな」
「やり切りましたね!」
「私の背景、ちゃんと見てもらえました」
「ミアの絵、めっちゃ評判よかったで」
「べ、別に、それが目的じゃなかったですけど」
その言葉に、みんなが、揃って笑った。
こうして、銀月座のフェス出演は、これまでの積み重ねを存分に見せつける形で、幕を閉じることになった。
だが、この日の反響が、思わぬ形で、この先の展開に繋がっていくことを、この時のあたしは、まだ知らなかった。




