第五十話 優しさの練習
「その動き、全然ダメですね。もう一度」
稽古中、ミアが、端役の劇団員に、容赦のない一言を放った。
「す、すみません……」
言われた劇団員は、すっかり萎縮した様子で、俯いていた。
「そこ、もっと腕上げてください。今のままじゃ、話にならないです」
「は、はい……」
あたしは、少し離れた場所から、その様子を見て、思わず眉をひそめた。
(あれ、ちょっと言い方きつすぎるんちゃう……? まるで、新人研修で教官が模擬戦車で圧をかけてくるみたいなキツさやわ)
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休憩中、あたしは、ノエルに、そっと相談を持ちかけた。
「なあ、ノエル。ミアの、あの当たりの強さ、そろそろ言うたほうがええんちゃう?」
「私も気になってたんです。でも、私が言っても、聞いてくれるかどうか……」
「先輩として、堂々と言うたらええんよ」
「ヴィクトリアさんみたいに、ですか?」
「あたしみたいに、とは言うてへんけど、まあ、そんな感じや」
「その自信、根拠あるんですか」
「根拠より勢いが大事なんよ、こういうのは」
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「ミアちゃん、ちょっといい?」
ノエルが、思い切って、ミアに声をかけた。
「なんですか」
「さっきの、あの子への言い方、ちょっと厳しすぎたと思うよ」
「事実を言っただけです」
「事実でも、言い方ってあるでしょ」
「じゃあ、どう言えばいいんですか」
ノエルは、少し考えるような顔をした。
「その、もっと優しく……あの、頑張ってね、みたいな?」
「それ、注意になってないと思います」
「うっ」
あたしが、思わず口を挟んだ。
「ノエル、また甘くなっとるやんか!」
「難しいんです、こういうの!」
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「よし、あたしがモデルケース見せたるわ」
あたしは、そう言って、ミアの前に立った。
「ミア、あんたの言い方、まるで、初心者に『お前、才能ないから今すぐ引っ越せ』って言うレベルのキツさやで」
「そんなに言ってないです」
「言ってるようなもんやろ、あの子の顔見たら分かるわ」
「顔色まで責任持てません」
「まるで、天気予報士が『今日は快晴です』って言いながら、外は台風みたいな、現実とのズレやわ」
「なぜ天気予報士が出てきたのか分からなくて、反論できないんですけど」
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「実は、私も、自分の言い方が強いのは、分かってるんです」
ミアが、少し投げやりな調子で、そう言った。
「え、自覚あったんか」
「昔から、そうなんです。友達も、あまり多くなかったですし」
「あ、それは、ちょっと聞いちゃまずい話やった?」
「別に、気にしてないです。ただ、事実を言ってるだけなので」
「それ、まさに今の指導と同じ構造やんか!」
「言われてみれば、そうかもしれません」
あたしとノエルは、思わず、顔を見合わせた。
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結局、あたしもノエルも、うまく言葉にできず、その場は、なんとなく終わってしまった。
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数日後、あたしは、あの端役の劇団員が、稽古を辞めそうになっているという話を、バロウから聞いた。
「え、辞めるて」
「ミアの指導が厳しすぎて、心折れそうになってるらしい」
その話を、ミアにも、そのまま伝えることにした。
「ミア、あの子、稽古辞めそうになっとるらしいで」
「……本当ですか」
ミアの表情が、初めて、はっきりと曇った。
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「そんなつもり、なかったです」
ミアは、そう、消え入りそうな声で呟いた。
「上手くなってほしいって、思って言ってただけで……傷つけたいわけじゃ、なかったのに」
「気持ちは分かるで。けど、伝え方って、大事なんよ」
「……昔からそうなんです。厳しいこと言って、相手が離れていく。それの繰り返しで」
「そら、自覚あるだけで、もう半分解決したようなもんやで」
「半分は、まだ何も解決してないですけど」
「もう半分は、これから頑張ればええんよ」
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「……分かりました」
ミアは、そう言って、あの劇団員のもとへ、自分から向かっていった。
「あの、この前の言い方、きつかったと思う。ごめんなさい」
「え……」
「あなたの動き、直してほしい部分はあるけど、それは、あなたを否定してるわけじゃないから」
その劇団員は、少し驚いた顔をした後、小さく頷いた。
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「ミア、ちゃんと謝れたな」
「べ、別に、大したことしてません」
「今のは素直に受け取っといたるわ」
「素直に受け取らなくていいです」
「その返し、友達少なかった原因、なんとなく分かってきたわ」
「今それ言うのは、さすがに酷いと思います」
あたしとミアのやり取りに、ノエルが、堪えきれずに笑い出した。
「良かったですね、ちゃんと伝わって」
「まあ、あたしらの注意は、全然役に立ってへんかったけどな」
「それは言わないでください」
結局、あたしたちの「注意」は、誰にも響かなかったが、ミア自身が気づいたことで、この一件は、丸く収まることになった。




