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自称・看板女優の私、ヤジには関西弁でツッコミ、SNSでは毎日コメント欄で漫才。女優のはずが芸人枠でした ~名前の意味は「勝利」~  作者: 中原九尾


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第五十話 優しさの練習

「その動き、全然ダメですね。もう一度」


 稽古中、ミアが、端役の劇団員に、容赦のない一言を放った。


「す、すみません……」


 言われた劇団員は、すっかり萎縮した様子で、俯いていた。


「そこ、もっと腕上げてください。今のままじゃ、話にならないです」


「は、はい……」


 あたしは、少し離れた場所から、その様子を見て、思わず眉をひそめた。


(あれ、ちょっと言い方きつすぎるんちゃう……? まるで、新人研修で教官が模擬戦車で圧をかけてくるみたいなキツさやわ)


*


 休憩中、あたしは、ノエルに、そっと相談を持ちかけた。


「なあ、ノエル。ミアの、あの当たりの強さ、そろそろ言うたほうがええんちゃう?」


「私も気になってたんです。でも、私が言っても、聞いてくれるかどうか……」


「先輩として、堂々と言うたらええんよ」


「ヴィクトリアさんみたいに、ですか?」


「あたしみたいに、とは言うてへんけど、まあ、そんな感じや」


「その自信、根拠あるんですか」


「根拠より勢いが大事なんよ、こういうのは」


*


「ミアちゃん、ちょっといい?」


 ノエルが、思い切って、ミアに声をかけた。


「なんですか」


「さっきの、あの子への言い方、ちょっと厳しすぎたと思うよ」


「事実を言っただけです」


「事実でも、言い方ってあるでしょ」


「じゃあ、どう言えばいいんですか」


 ノエルは、少し考えるような顔をした。


「その、もっと優しく……あの、頑張ってね、みたいな?」


「それ、注意になってないと思います」


「うっ」


 あたしが、思わず口を挟んだ。


「ノエル、また甘くなっとるやんか!」


「難しいんです、こういうの!」


*


「よし、あたしがモデルケース見せたるわ」


 あたしは、そう言って、ミアの前に立った。


「ミア、あんたの言い方、まるで、初心者に『お前、才能ないから今すぐ引っ越せ』って言うレベルのキツさやで」


「そんなに言ってないです」


「言ってるようなもんやろ、あの子の顔見たら分かるわ」


「顔色まで責任持てません」


「まるで、天気予報士が『今日は快晴です』って言いながら、外は台風みたいな、現実とのズレやわ」


「なぜ天気予報士が出てきたのか分からなくて、反論できないんですけど」


*


「実は、私も、自分の言い方が強いのは、分かってるんです」


 ミアが、少し投げやりな調子で、そう言った。


「え、自覚あったんか」


「昔から、そうなんです。友達も、あまり多くなかったですし」


「あ、それは、ちょっと聞いちゃまずい話やった?」


「別に、気にしてないです。ただ、事実を言ってるだけなので」


「それ、まさに今の指導と同じ構造やんか!」


「言われてみれば、そうかもしれません」


 あたしとノエルは、思わず、顔を見合わせた。


*


 結局、あたしもノエルも、うまく言葉にできず、その場は、なんとなく終わってしまった。


*


 数日後、あたしは、あの端役の劇団員が、稽古を辞めそうになっているという話を、バロウから聞いた。


「え、辞めるて」


「ミアの指導が厳しすぎて、心折れそうになってるらしい」


 その話を、ミアにも、そのまま伝えることにした。


「ミア、あの子、稽古辞めそうになっとるらしいで」


「……本当ですか」


 ミアの表情が、初めて、はっきりと曇った。


*


「そんなつもり、なかったです」


 ミアは、そう、消え入りそうな声で呟いた。


「上手くなってほしいって、思って言ってただけで……傷つけたいわけじゃ、なかったのに」


「気持ちは分かるで。けど、伝え方って、大事なんよ」


「……昔からそうなんです。厳しいこと言って、相手が離れていく。それの繰り返しで」


「そら、自覚あるだけで、もう半分解決したようなもんやで」


「半分は、まだ何も解決してないですけど」


「もう半分は、これから頑張ればええんよ」


*


「……分かりました」


 ミアは、そう言って、あの劇団員のもとへ、自分から向かっていった。


「あの、この前の言い方、きつかったと思う。ごめんなさい」


「え……」


「あなたの動き、直してほしい部分はあるけど、それは、あなたを否定してるわけじゃないから」


 その劇団員は、少し驚いた顔をした後、小さく頷いた。


*


「ミア、ちゃんと謝れたな」


「べ、別に、大したことしてません」


「今のは素直に受け取っといたるわ」


「素直に受け取らなくていいです」


「その返し、友達少なかった原因、なんとなく分かってきたわ」


「今それ言うのは、さすがに酷いと思います」


 あたしとミアのやり取りに、ノエルが、堪えきれずに笑い出した。


「良かったですね、ちゃんと伝わって」


「まあ、あたしらの注意は、全然役に立ってへんかったけどな」


「それは言わないでください」


 結局、あたしたちの「注意」は、誰にも響かなかったが、ミア自身が気づいたことで、この一件は、丸く収まることになった。

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