第四十九話 ミア、映え板デビュー
「なあ、ミア。あなたも、映え板始めた方がいいんじゃない?」
記事の反響も落ち着いた頃、あたしは、そんなことを言い出した。
「なんで、私まで」
「見てみ、あの記事のおかげで、あたし、フォロワー増えたでしょ。映え板やってると、思わぬ機会に繋がるのよ」
「その機会、大体奇行のせいで来てるじゃないですか」
「結果はどうあれ、機会は機会や。腐ったミカンでも、ミカンはミカンやろ」
*
「別に、興味ないです」
「そんなこと言わんと。ミアの絵の才能、あれ、映え板でも披露したらええんよ」
「絵は、別に見せるものじゃないです」
「見せな、誰にも分からへんやろ」
ミアは、少し考えるような顔をしたが、結局、渋々といった様子で、頷いた。
「……分かりました。一回だけ、やってみます」
「その調子や!」
*
その日、あたしは、ミアの映え板デビューを、隣で監督することにした。
「まず、自己紹介から書いてみようか」
「なんて書けばいいんですか」
「正直に、思ったこと書いたらええんよ」
ミアは、しばらく悩んだ末、こう投稿した。
『初めまして。銀月座で新人やってます。よろしくお願いします』
「……堅いな」
「別に、これでいいと思います」
「もっと、ミアらしさ出さんと」
「ミアらしさって、何ですか」
「その、ツンデレなとことか」
「ツンデレじゃないです」
「そんなに必死に否定するとこが、もうツンデレの証拠やんか」
*
あたしのアドバイスを受け、ミアは、少し書き直すことにした。
『初めまして。銀月座で新人やってます。ヴィクトリアさんのせいで、色々振り回されてますが、よろしくお願いします』
「それは、あたしのせいにしすぎちゃう?」
「事実です」
「事実でも、もう少し柔らかく書いてくれてもええんやけどな」
*
投稿すると、コメントは、すぐについた。
『新人さん来たー!』
『ヴィクトリアさんに振り回されてる系、既に親近感』
『この子も苦労人枠か』
「苦労人枠て、初日から定義されるの、なかなか可哀想やな」
「その原因、目の前にいる人ですよね」
*
数日後、ミアは、勧められた通り、自分の絵を、映え板に投稿した。
『暇な時に描いた絵です』
その絵は、看板の新調回で見せたのと同じくらい、洗練されたものだった。
コメントは、すぐについた。
『これは普通に上手い』
『新人さん、実力ありますね』
『ヴィクトリアさんより先に売れそう』
「誰があたしより先に売れそうって話しとんねん!」
あたしは、思わず、そう突っ込んでしまった。
「あら、嬉しい」
ミアが、珍しく、素直に嬉しそうな顔をした。
「今、素直に喜んだやろ、今」
「喜んでません」
「もう見てもうたわ、嬉しそうな顔」
*
「まあ、始めてみたら、案外悪くないもんかもしれません」
ミアが、ぽつりと、そう漏らした。
「せやろ。あたしのおかげやな」
「あなたのおかげというより、あなたのせいで始める羽目になった、が正確だと思います」
「細かいこと気にすなや」
あたしたちは、そのやり取りを繰り返しながら、稽古場を後にした。
銀月座の映え板事情に、また一つ、新しい賑やかさが加わることになった。




