第四十七話 セレナ、私服で登場
「今度の休み、稽古とか興行じゃなくて、ただの休日として、一緒に出かけません?」
ある日、セレナから、そんな誘いが来た。
「え、プライベートで?」
「たまには、女優じゃない時間を、過ごしたくて」
「ええで。付き合うたるわ」
*
当日、待ち合わせ場所に現れたセレナは、いつもの派手な帽子もドレスもなく、驚くほど普通の私服姿だった。
「……誰やお前」
「失礼ね、私よ」
「いや、ホホホの気配が全然せえへんから」
「休日くらい、素の自分でいさせてくださいまし」
「その語尾は残っとるんかい」
*
二人で、街のカフェに入る。
「こういう時間、実は貴重なんですのよ。普段、常に見られてる仕事ですから」
「分かるわ。あたしも、映え板見られてる感覚、四六時中あるもん」
「その割に、失敗投稿、量産してますけど」
「それは、また別の問題や」
*
会話の途中、セレナが、少し照れくさそうに、こんなことを言い出した。
「実は、私、家では、結構だらしないんですのよ」
「え、どんな感じや」
「靴下、片方だけ探すのに、いつも時間かかりますし」
「それ、しょうもない話やな」
「しょうもなくて悪かったですわね」
「いや、悪くはないで。むしろ、あんたにも、そういう普通な部分あるんやなって、ちょっと安心したわ」
*
カフェを出た後、二人で、街の市場をぶらつくことにした。
「なあ、あんた、今日の私服、正直言うてええか」
「なんですの、急に」
「悪くはないけど、ちょっと地味やな。あたしが、コーディネート考えてやろか」
「……あなたに言われるのが、一番説得力ない気がしますけど」
「なんでや!」
「映え板で、散々ファッションいじられてる人ですよね、あなた」
「うっ……それは、まあ」
「自分の服より、まず私の服を心配する余裕、あなたにあるんですの?」
「言い返せへんとこが、悔しいわ」
*
市場の一角で、小さな屋台ゲームを見つけた。輪投げのような、単純な遊びだった。
「せっかくやし、勝負せえへん?」
「いいですわよ。負けませんけど」
「その自信、どこから来るんや」
結果は、あたしの惨敗だった。輪は、一つも入らず、セレナは、涼しい顔で、三つも入れてみせた。
「なんでや! あたしの方が、断然運動神経よさそうやのに!」
「輪投げは、運動神経の問題じゃないと思いますけど」
「悔しい……次は絶対勝つ」
「その意気込み、稽古にも向けてほしいですわね」
「うるさいわ」
*
街を歩いている途中、通りすがりの人が、セレナに気づかず、あたしにだけ声をかけてきた。
「あ、格闘技の人だ!」
「誰が格闘技の人じゃ!」
あたしが、思わず素で叫んだ。その様子を見て、セレナが、堪えきれずに笑い出した。
「相変わらず、賑やかですのね」
「あんたの方が、今日は静かすぎて調子狂うわ」
「休日ですもの」
*
夕方、別れ際、セレナが、少し名残惜しそうに言った。
「今日は、楽しかったですわ」
「あたしもや。またこういう日、作ってな」
「ええ、ぜひ」
あたしがそう返すと、セレナは、いつもの調子に戻って、こう続けた。
「では、また、ホホホ」
「戻ったんかい、その口調」
「休日は終わりましたので」
「切り替え早すぎるやろ!」
あたしたちは、そのやり取りに、揃って笑いながら、それぞれの帰路についた。
普段とは違う一面を見られたことで、あたしの中で、セレナという存在が、また少し、近しいものになっていた。




