↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勝利を約束された女  作者: 中原九尾


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
38/51

第三十八話 結局、いつも通り

「ヴィクトリア、これ見てみろ」


 ある日、バロウが、一枚の告知を持ってきた。


『首都グランディア 新設劇団 旗揚げメンバー募集』


「新設……ってことは、実績とか、あんまり関係ないんちゃう?」


「かもしれないな。新しいとこだから、変な色に染まってない人材、欲しがってる可能性もある」


 あたしは、思わず、身を乗り出した。


「これ、絶対応募するわ!」



 その日から、あたしは、いつも以上に気合いを入れて、応募書類の準備に取り掛かった。


「今度こそ、いける気がするわ」


「毎回言ってますよね、それ」


 ノエルが、いつもの調子で、そう突っ込んできた。


「今回は、根拠があるんよ。新設やから、実績とか関係ないし」


「その理屈、これまでも何回か聞いた気がします」


「うっさいわ」



 応募書類には、これまでで一番、気合いを入れた。舞台写真も、一番評判の良かった回のものを厳選し、経歴も、大げさにならない範囲で、丁寧にまとめた。


「今回は、いけそうな気がしてきたわ」


 あたしは、映え板にも、こう投稿した。


『新しいオーディション、応募しました。今回は手応えあります』


 コメントは、すぐについた。


『応援してます!』

『毎回、手応えあるって言ってません?』

『でも今回は本当にいけそうな気がします』


 その最後のコメントに、あたしは、少し勇気づけられた。



 数週間後、返信が届いた。


 あたしは、緊張しながら、その封を開けた。


『この度は、ご応募いただきありがとうございます。誠に残念ながら――』


「……あー、これ、いつもの流れやん」


 あたしは、思わず、脱力してしまった。



 稽古場で、この結果を報告すると、アメリアが、少し気の毒そうな顔をした。


「残念だったわね」


「まあ、慣れとるからな、この感覚」


「その慣れ方、逆に心配になるレベルだけど」


「まるで、雨に濡れるの慣れすぎて、傘持たんくなった人みたいな話やろ」


「その例え、地味に的確で辛いわ」



 その夜、あたしは、映え板に、正直な結果を投稿した。


『今回も落選でした。でも次があります』


 コメントは、すぐについた。


『これで何回目でしたっけ』

『もう数えてないですよね、たぶん』

『その安定した落選っぷり、逆にすごい』


「誰が安定した落選女じゃ!」


 あたしは、思わず、そう打ち込んでしまった。



 結局、その一件があった後も、あたしの日常は、何一つ変わらなかった。


 いつも通り、稽古に励み、いつも通り、映え板でいじられ、いつも通り、ノエルに慕われ、アメリアに例えを取られ、ミアにツンデレられる。


「まあ、それはそれで、悪くない日常やな」


 あたしは、そう小さく呟きながら、次のオーディション情報を、さっそく探し始めていた。


 その姿は、傍から見れば、何一つ成長していないように見えたかもしれない。だが、少なくとも、あたし自身は、この繰り返しの中に、確かな居場所を感じ始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。