第三十八話 結局、いつも通り
「ヴィクトリア、これ見てみろ」
ある日、バロウが、一枚の告知を持ってきた。
『首都グランディア 新設劇団 旗揚げメンバー募集』
「新設……ってことは、実績とか、あんまり関係ないんちゃう?」
「かもしれないな。新しいとこだから、変な色に染まってない人材、欲しがってる可能性もある」
あたしは、思わず、身を乗り出した。
「これ、絶対応募するわ!」
*
その日から、あたしは、いつも以上に気合いを入れて、応募書類の準備に取り掛かった。
「今度こそ、いける気がするわ」
「毎回言ってますよね、それ」
ノエルが、いつもの調子で、そう突っ込んできた。
「今回は、根拠があるんよ。新設やから、実績とか関係ないし」
「その理屈、これまでも何回か聞いた気がします」
「うっさいわ」
*
応募書類には、これまでで一番、気合いを入れた。舞台写真も、一番評判の良かった回のものを厳選し、経歴も、大げさにならない範囲で、丁寧にまとめた。
「今回は、いけそうな気がしてきたわ」
あたしは、映え板にも、こう投稿した。
『新しいオーディション、応募しました。今回は手応えあります』
コメントは、すぐについた。
『応援してます!』
『毎回、手応えあるって言ってません?』
『でも今回は本当にいけそうな気がします』
その最後のコメントに、あたしは、少し勇気づけられた。
*
数週間後、返信が届いた。
あたしは、緊張しながら、その封を開けた。
『この度は、ご応募いただきありがとうございます。誠に残念ながら――』
「……あー、これ、いつもの流れやん」
あたしは、思わず、脱力してしまった。
*
稽古場で、この結果を報告すると、アメリアが、少し気の毒そうな顔をした。
「残念だったわね」
「まあ、慣れとるからな、この感覚」
「その慣れ方、逆に心配になるレベルだけど」
「まるで、雨に濡れるの慣れすぎて、傘持たんくなった人みたいな話やろ」
「その例え、地味に的確で辛いわ」
*
その夜、あたしは、映え板に、正直な結果を投稿した。
『今回も落選でした。でも次があります』
コメントは、すぐについた。
『これで何回目でしたっけ』
『もう数えてないですよね、たぶん』
『その安定した落選っぷり、逆にすごい』
「誰が安定した落選女じゃ!」
あたしは、思わず、そう打ち込んでしまった。
*
結局、その一件があった後も、あたしの日常は、何一つ変わらなかった。
いつも通り、稽古に励み、いつも通り、映え板でいじられ、いつも通り、ノエルに慕われ、アメリアに例えを取られ、ミアにツンデレられる。
「まあ、それはそれで、悪くない日常やな」
あたしは、そう小さく呟きながら、次のオーディション情報を、さっそく探し始めていた。
その姿は、傍から見れば、何一つ成長していないように見えたかもしれない。だが、少なくとも、あたし自身は、この繰り返しの中に、確かな居場所を感じ始めていた。




